第103話 落ちる ページ8
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『これで全部かな』
入院中に使ったタオルや歯ブラシなどカバンに詰め込む。といってもそんなに荷物はない。
数日間お世話になった新井先生に、お礼を告げてから帰ろうと病室を出る。待合室には誰もいない。
(あ、月詠さんにも電話しなきゃ)
“家まで送るから、診療所を出る時電話して”
と彼女に言われていた事を思い出す。
携帯を取り出し、月詠さんの名前を選択してボタンを押す。数コールしたが、結局月詠さんは出なかった。忙しいのだろう。
私が誰かに狙われていなきゃ、月詠さんの負担になることもないのに……
深くため息をつきながら、私はこれまでのことを振り返っていた。
多分、ことの始まりはそよ姫様が攫われた祭りの日。
あぁ、そうだ。あの時も彼に助けられた。
『神威さん……』
私の名前を呼んでくれた声を今でも思い出して、胸が苦しくなる。
その後、吉原にいる4人の女性が襲われる。みんな私に似たような人ばかり。おそらく偶然じゃない。
そう思ってた矢先に、雅が何者かに襲われる。
代わりに店に出たあの時、部屋に連れ込まれたことを思い出す。
あの襲ってきた男の人の力が強くて、身動きなんてとれなくて、神威さんが来てくれなかったら、どうなっていたか。
そして、日輪さんが襲われた。あの時野次馬の中にいたんだ。私を狙ってる人物が。
“お前のせいだ”
憎しみと、どこかあざ笑うような声。まるで私が傷つくのが面白いみたいな。
晴太くんの涙に濡れた顔。日輪さんが目の前で倒れてるのはお前のせいなのだと。
あの夢。
夢なのに、鮮明で今も思い出す。みんなから向けられる冷たい視線。針のように浴びせられる言葉。
逃げ出した私は雨の中、歌舞伎町にいて、古い神社で神威さんに会った。
“ 俺の手が怖い? “
あの時の神威さんの苦しそうな瞳。傷ついたような表情。
彼はこうなることが分かっていたのかもしれない。
いつか、私が拒絶すると。
あなたの手を振りはらう時がくることを。
『だから、あんな表情……』
私はなんてことをしたのだろう。
銀時さんの言う通り、分からないことを聞けばよかったんだ。
自分が神威さんの本当の心を知るのが怖くて、彼の言葉に耳を傾けようともせず、ただ拒絶だけして。
自分が傷つきたくないからって。
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月夜の光(プロフ) - SARAさん» コメントありがとうございます!遅くなり申し訳ありません!読んでくれて嬉しいです!カメ更新ですが、よろしくお願いします! (1月8日 20時) (レス) id: 26850a1960 (このIDを非表示/違反報告)
月夜の光(プロフ) - 寝子/猫さん» コメントありがとうございます!!遅くなり申し訳ありません!うぶな神威くんの行き着く先を一緒に見守ってください! (1月8日 20時) (レス) id: 26850a1960 (このIDを非表示/違反報告)
SARA(プロフ) - 1日で読み終わっちゃいました!大好きです♡更新またあるといいなあ… (10月1日 16時) (レス) @page5 id: 000b3a28d3 (このIDを非表示/違反報告)
寝子/猫 - 恋にうぶなかむいくん尊い (8月26日 1時) (レス) @page5 id: a46c77cf46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月夜の光 | 作成日時:2023年8月6日 14時