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二十九章 ページ29

「世の中が正義で溢れてたらつまらないでしょう?」

小泉は底のない瞳を、川海女医に向けたまま云った。
「私は正義よりも悪を求めます。非現実よりも現実を求めます。ーその犠牲者が、貴女の娘である夏さんと云う訳ですよ」

川海女医の中で、何かが音を立てて切れた。
小泉の襟首に摑みかかった時、切れた物が“怒り”と云う感情である事を知った。
「正義よりも悪?非現実よりも現実?その犠牲者が夏だって?ふざけるな‼」
花見に来ていた観光客達が、異常に気づいて川海女医と小泉に視線を送る。
川海女医は血走った目で、尚も笑顔を貼り付ける小泉を睨んでいた。

「お前には心がないのか!死んだ夏がどんな気持ちでいたか判っているのか⁉夏をなくした妾の気持ちが判るか?異能なんてどうでもいい、妾が欲しいのは夏だよ!妾は、夏がいなければ異能が発動しないから夏を育てていたんじゃない!夏を本当に愛していたから、世界で一番大切に思っていたから育てていたんだ!」

一息に云い切った。
小泉は目を見開いて、しばらく感情を失ったように無表情になる。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「それです。私は貴女のそれが気に入らなかった。娘の為なら何でもする、その考えが気に入らなかったんです」
川海女医の手が、小泉の襟首から離れる。
肩で息をしながら、川海女医が小泉を睨んだ、その時ー。

…………………………………チリン。

桃色の雨が降り注ぐ中に落ちた沈黙を、澄んだ鈴の音色が、破った。

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茉里 - ありがとうございます!続編もじゃんじゃん更新しますので……よろしくお願いします! (2019年6月4日 19時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
ク レハ(プロフ) - 完結おめでとうございます!続編のほうも応援させていただきます!! (2019年6月4日 18時) (レス) id: ddd19fa939 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - ええ!勿論です! (2019年6月3日 18時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)
茉里 - 最後まで読んでくださってありがとうございました!新作書いたらまたよろしくお願いします! (2019年6月3日 17時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2019年6月3日 17時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:茉里 | 作成日時:2019年5月27日 21時

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