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第捌什柒話「狐火を喰わない様に」 ページ37

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失礼します。


一声は出来るだけ静かに掛けてから、襖に手を掛けるんだ。

何時だったか。もう四年も前のことか。

口も利けず、字の読み書きすら出来ない無作法者のわたしを根気よく躾けた師匠がそんなことを言ってた。

感情を込めて発する声は人によっては不快な思いをさせるから、とも言ってたっけ。

あれはもしかするとわたしに暗殺の方法を教えてた内容の一つだったのかもな。

深呼吸を兎に角静かに済ませて、襖の前に軽く正座してそれから……失礼します。と言って襖に手を掛けてゆっくり開けた。

ぼんやりした目と視線が絡まる前に頭を下げて畳に座す。

あった。
わたしの日輪刀。

あれだけだ、あれさえ持って行けば彼とはもう会う機会はないだろう。


「とき…霞柱様。お休みのところ申し訳ございません。失礼ながら、わたしの日輪刀を回収させていただきます」


「え」


立て掛けて置いておいた刀を持って腰を上げようとすると、信じられないモノを見るみたいな視線を頂戴した。


「?わたしがいたらお休みの妨げになるでしょうから…これにて、失礼致します」


思えば、柱の前でずっとでしゃばってたわけだし、これ以上の長居は無礼に当たる。

てか、明らかに邪魔だろう。


深々と頭を下げてから立ち上が────、ろうとして。


「っ、待って…」


掛け布団の下から伸びてきた手に羽織の裾を掴まれる。


「霞柱さ、むぐ…っ?」


咄嗟に役職名で呼ぼうとした口を少し大きい白い手が塞がれた。

全く抵抗出来なかったわたしは、そのまま畳に座り込む。

口から吸い込んでいた空気が突然失せて驚いたのか。

彼の唐突な行動に自分が何も出来なかったことに驚いたのか。

よくわからないけど、何故だろう。


「…その呼び方はやめて。そんなよそよそしいのは嫌だよ、A」

「っ、」


その縋る様な声音は妙に胸を締め付けるんだ。


「返事は?」


じっとわたしの目を見て待ってる彼から目を離せない。

愛想笑いの用意が間に合わず、わたしは狼狽えてしまう。

────断らなきゃ。

だってそんなの、いけないことだ。
階級が違い過ぎる。
柱とただの一隊員で、今日初めて逢ったって…それだけなのに。

つらつらと頭の中で建前が流れてくのに、喉がひくついて上手く言えない。

いつもみたいに、笑えない。

第捌什捌話「優しく塞ごう」→←第捌什陸話「その手は振らず、」



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素敵な作品ですね - めちゃくちゃ面白くてシリーズの最初から一気読みしてしまいました!更新楽しみにしてます。 (2019年10月23日 14時) (レス) id: 87b58a18e6 (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 05191dc1a4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月7日 8時

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