これが恋だなんて信じないⅡ (ページ35)

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一人のページ35

「寂しい…ね。」

会えなくなる前に伝えたいことは伝えた方がいいだろうか。これから、宏規くんはますます手の届かないような遠い人になっていくんだろう。宏規くんの負担にならないなら、私の想い以外なら、伝えてもいいかな。

「うーん…宏規くんは、自分の未来を変えるほどの奇跡みたいな出会いを、熊川さんのバレエに出会って、したことがあるよね。」

「え？…うん、まあ今思うと」

「前も言ったけどね、私にとって、宏規くんはそういう人なんだ。知ったのもすっごく偶然だったし、もしかしたら、宏規くんとこうして話していない、普通に地元の大学に通ってる未来の方が可能性も高かったと思う」

「……うん」

宏規くんは、相槌を打ちながら、静かに話を聞いてくれていた。さっきまではお互いの方を見ずに話していたんだけど、今は、ちゃんと向き合ってる。

「でも、今こうして宏規くんと話せたりできるのが、私はすごく嬉しくて、幸せだし、特別な時間だし……大切なの。」

「うん」

「だからさ、出会ってくれてありがとう。宏規くんは、人の人生を変えられるほどの影響を持ってる。すごくない？私は、宏規くんのことを応援できるのが嬉しいし、宏規くんの成功も自分のことのように嬉しい。」

「だから、これからもがんばって」
そう言おうとして、私は宏規くんが私の方に向かって伸ばした片手と、視界が一気にぼやけたので、私が泣いていることに気付いた。口下手なので頭を働かすので精一杯だったのだ。

宏規くんの柔らかい指が私の涙を拭った。そしてそのまま私の頭の上へとその白い手を伸ばして、優しく撫でた。いきなりの行為に身体がびっくりして、鼓動が速くなる。

「俺もさ、忙しくなる前に伝えたいことあるんやけど、いい？」

宏規くんは、珍しく神妙な様子で私の眼を見て言った。その眼は吸い込まれそうなほど澄んでいて、真っ直ぐだった。私は、その様子に促されるようにして首だけで頷く。

「俺は、そんなこと言ってくれるAちゃんが……好き。…一人のファンとして、じゃなくて、一人の女の子として」