Story2-1*候補者 ページ4
猫目の人がお茶を持ってきてくれて、真ん中に置かれていた机の上に置く。隅っこに座っていたわたしは、せっかくだからと側まで寄った。
(わたし、どうしたらいいんだろ)
本来の目的を忘れたわけじゃない。けどあくまで噂は噂。中に上がったけど実際に噂が本当かどうかなんてわからない。
(聞かなきゃかあ)
猫目の人のおかげで完全に緊張もほぐれてきた頃、目的を果たそうと口を開く。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね」
わたしの言葉は、そんな言葉に消されてしまった。
そしてその言葉で、そういえばと思い出す。自由すぎる空間に気にしていなかったが、まだ誰一人名前を知らないまま。
しかし猫目の人が放った言葉に反応する者は誰一人いない。
(ほんと、自由すぎない?わたしお客だよね?アレ?)
首を捻るがどれだけ考えてもわたしはお客。お客を放って各々が好きなことをするなんて、お店としてどうなんだろう。
「ほら!みんなも自己紹介しますよ!」
猫目の人が声を張って叫ぶが、どれも返ってくるのは「めんどくさい」という返答。
「めんどくさいって……」
思わず呆れて言葉に出るが、わたしの言葉を拾う人もいない。
「ごめんね、俺は山崎退です。一応店主みたいなものかな」
「アッ、榊Aです。」
「よろしくね」
そう微笑む山崎さんの癒し度といったらどれほどのものか。お店としてやっていけるのかよくわからない人たちの中でやっぱりこの人はまともだった。
もはや他に人がいるにも関わらず、横に来てくれた山崎さんと二人で話しているだけ。
「ところで、Aちゃんって買いに来た人?」
「いきなり本題きたあ……」
「え?」
「いえなんでもないです!」
山崎さんの言った"買いに来た人"に全員が反応した様な気がするのは気のせいだろうか。
少しだけ、ぴくりと身体が動いた気がする。いやしかし、わたしはそれどころじゃない。いきなりの本題に、心が追いついていない
「この店の目的は知ってる?」
「えー……、と。彼氏が買えるって噂が」
だんだんと声が小さくなっていく。買うだなんて、失礼すぎるんじゃないかと、とても今更な考えが頭をよぎる。
「正解だ」
山崎さんのものではない声が聞こえる。聞こえた方を見ると、どうやら煙草を既に吸い終えていた人が答えたらしい。
人の話を聞いていないように見えて、聞き耳は立てていたらしい。
(ところで、この人誰だ)
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作者名:宮前 | 作成日時:2017年10月30日 23時