前世で鬼殺隊の一隊士だった私は今世でも一生徒として過ごしたい

犬っぽい ページ5

｢あの！｣

後ろを振り返ると、赤みがかった黒髪にピアスをつけた……竈門君！？

な、なな、ななななぜ、わたしの腕を？？


｢なん、でしょうか｣

あばばばばば(((

引きつった笑顔を貼り付けてほぼ棒読みで聞き返す。


｢俺の事覚えていませんか？｣

女の私が羨ましいくらいに大きくて丸い目をうっすら潤ませて、子犬みたいに問われた。

……え？？？？可愛いんだけど？？？？

あざとすぎるよ、やめてくれ。

弱いんだよ私は！そういう八の字眉に弱いの！！！


｢パン屋の店員さん、だったよね？｣

｢あの、ごめんなさい｣

｢私店を間違えてしまって｣

｢でも美味しそうだったので必ずまた買いに行きます｣

ずらずら弁解の言葉を並べる。


急に立ち去ったことに傷ついてるのかな。

パンを侮辱されたって思ってるよな、多分。

まあでも悪気はなかったから優しい彼は分かってくれる、と思って竈門君を見る。


竈門君は元々大きい目をさらに見開いていた。


｢……はい、ありがとうございます｣

彼らしくない消えそうな声だった。


何その反応？？？

地雷踏んだかな、え、嘘だと思われてる？？

君が働いてる所のパンは美味しそうだったよ！？


｢では、私はこれで｣

｢あ！なら今から来てください！！｣

私が帰ろうとしたら、急に大きな声でそう言われた。


｢はい？｣

何を言われてるか分からなくて、間抜けな声が出てしまった。


｢パン屋、俺の実家でやってるんです｣

｢今から来てください、奢ります！｣

竈門君はさっきまでとは打って変わって、目を輝かせながら宣言した。


そして竈門君は掴んでいた私の腕を今度は引っ張って歩きだした。


私は言われた言葉の意味がよく理解出来なかった。

今から来てください？

どこへ？竈門君家のパン屋。

今から？今から。

というかゆうちゃんは？いない、先に帰った。


ようやくヤバい事を気づいた時にはもう既に校門を抜けていた。


｢ごめん私ちょっと今日は｣

｢ここを右です！！｣

｢待ってええええええ！？！？｣


竈門君は私の腕を掴んだまま爆走し始めた。

前世でもこういう事が多々あったのに気づくのが遅すぎた。


雷の呼吸を習得していたためか今世でもついていける自分が憎い。

だが竈門君の走りを止める力はないのだ、くそ。

炎の呼吸習得すれば良かったよ。

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