彼は光になりたかった

#09 ページ15

『僕の曲を聞いてくれる人は皆、共感できると言ってくれますが、共感できるはずがないんです。


少し言い方が悪くなってしまいましたね、すみません。


でも、これが僕の本心です。人の心に同じものなんて一つもない。


だから、共感できるはずがないんです。


僕は自分のために歌を作って自分のために、自分に優しい世界を作っています。


独りよがりでごめんなさい。


でも、僕は僕の曲に、共感してくれる人は求めていない。


もし、本当に共感できて共鳴できる人が出てきてしまったら。


それは僕の曲じゃない。その共感して共鳴できた人の曲です。


僕の曲は僕の世界です。


全て。


だからもし、本当に辛くって共感したくて共鳴したいのなら


自分で自分の世界を切り拓いてください。


それがあなたにとって1番の答えで、1番の世界です。


あなたが本当に共感して、共鳴したがっているのか。それがわかるのはあなた自身しかいない。


これが、僕の歌に対する僕自身の答えです。』


だいぶ喋りすぎてしまった。


女性キャスターがあっけにとられたように少し目を見開いてからすぐに笑みを元に戻し、エンディングの定型文を述べる。


小さく一礼してエンディングの曲を聴く。


監督の声に立ち上がり、挨拶してから澤藤と一緒にスタジオを出た。


今日はこれから新曲MVを見ないといけない。


車に乗り込み、大きくため息を吐けば暫く車が発進しないのに気づいた。


『……澤藤サン？』


「……悪いな、さっきのお前の答えでガラにもないが感動してる。」


は？


澤藤が？


混乱している俺を見て、彼が笑う。


振り向いた彼は涙をボロボロこぼしながら笑っていた。


嗚呼。


歌っていてよかった。


歌えていてよかった。


涙が溢れる。


2人、狭い車内でバカみたいに泣いた。

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