紅い眼の陽炎

１５話 人生万事塞爺が虎 ページ17

Aside

慌てだす中島さんを宥める僕達。


───だって、音の聴こえた方からは
虎は来ないんだもの。


何故わかるんです！と半(なか)ばヤケクソに
太宰さんと僕に問いただす。



太宰「抑(そもそ)も変なんだよ、敦君」

貴「経営が傾いたからって養護施設が児童を
追放すると思いますか？

大昔の農村じゃあ有るまいし」

太宰「否、抑(そもそ)も経営が傾いたんなら
１人２人追放したところでどうにもならない」

貴「半分くらいに減らして他所の施設に移すのが
筋ってものでしょう」



そう。

養護施設が児童を追放してしまうということは
まずなかなか無いだろう。

それに経営が傾いたのなら、
中島さん１人だけを追放したところで
特に何も変わらないだろう。


僕達の説明を聞いても未だ理解が
追いつかないのだろう。

何を言っているんだと云いながら、
窓から見える綺麗な丸い満月を見上げる中島さん。


────否、言葉が不自然に途切れた。


そんな中島さんを置いて説明を続ける太宰さんに
合わせて、僕も説明を続ける。



太宰「君が街に来たのが２週間前」

貴「虎が街に現れたのも、２週間前」


太宰「君が鶴見川べりに居たのが４日前」

貴「同じ場所で虎が目撃されたのも、４日前」



目を見開いて月を見続ける中島さん。

苦しそうに唸りながらその場に立ち尽くす。


────嗚呼、中(あた)ってしまった。



太宰「国木田君が云っていただろう。
『武装探偵社』は異能の力を持つ輩(やから)の寄り合いだと。

巷間(こうかん)には知られていないが
この世には異能の者が少なからず居る」


貴「その力で成功する者も居れば───
力を制御できず身を滅ぼす者も居る」


太宰「大方(おおかた)施設の人は虎の正体を
知っていたが君には教えなかったのだろう」


貴「貴方だけが解っていなかったのです」
太宰「君だけが解っていなかったのだよ」


太宰「君も『異能の者』だ」

貴「現身(うつしみ)に飢獣(きじゅう)を降ろす、
月下の能力者───」









そう云う僕達の目の前には、
白い毛並みが美しい虎が居た────。

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