紅い眼の陽炎

１２話 人生万事塞爺が虎 ページ14

Aside

太宰「近頃街を荒らしてる『人食い虎』だよ。

倉庫を荒らしたり畑の作物を食ったり好き放題さ。

最近この近くで目撃されたらしいのだけど＿＿＿」



太宰さんがそこまで云うと、ガタンと音をたてて椅子から転げ落ちる中島さん。

それを見るだけの周り。


嗚呼、滑稽(こっけい)ですね。←


然し、転げ落ちる程にこの話に何か思うところがあるということ。

『異能力』とやらが一体どのようなものなのか想像もつかないが、
屹度(きっと)"そういう"ものも有るのだろう。

然し未だ確証を得るには情報が足りない。
先(ま)ずは何か知っていそうな中島さんに話を聞かねば。


そう思い、四つん這いになって立ち(？)去ろうとする
中島さんの前に立ちはだかろうとした。

然し国木田さんの方が疾(はや)かった。

中島さんの首根っこを掴んで片手で持ち上げる。

筋力すご…とか思ってる場合じゃないですね。


奴に人が敵(かな)うわけない。
あいつは僕を狙ってる。


まるで実際に見て追いかけられているかのような口振り。

すると国木田さんは僕の思考を断ち切る様に
中島さんを床に押さえつける。


矢張り『武装探偵社』は荒事が領分らしい。
秒速の動きだった。


然し、茶漬け代は腕一本か凡(すべ)て話すか、なんてあんまりじゃないか。

僕が止めようとしたところを太宰さんが遮って止める。

まあ事情を知っている太宰さんの方が説得力があるだろうから譲る。


情報収集が尋問になるのは少し、というかだいぶ非道いと思う。

まあ、太宰さんと何時(いつ)も忠告してくれているらしい
社長さんに感謝ですね。

お陰で中島さんが無事に解放された。


それで？と太宰さんが中島さんに問う。

心配して差し上げてくださいよ。
ほら、中島さんジト目になってますよ。

然し普通に話し始める中島さんは優しいですね。


要約すれば、例の虎に孤児院を荒らされ、
死人は出なかったものの、
貧乏だった孤児院は立ち行かなくなり、
何故だか中島さんは口減らしに追い出された。

孤児院の畑の大根を食べればいいものを、
何故か中島さんを追って虎は現れた。

鶴見川の辺りを彷徨い歩いていた時も、
虎は中島さんの後を追っていた。

中島さんは空腹状態であった為、頭は朦朧(もうろう)とし、
その後何処をどう逃げたのかも判らない。

ただはっきりしているのは、
二週間前院を出たことと
四日前鶴見にいたこと。

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