50話 ページ3
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蛇口から出る水は
お湯に切り替わる前の
氷のように冷たい水だった
そんな水の溜まった水槽に手を入れて
今日溜まった分の食器を洗う
一日の終わりを感じさせる仕事だと思う
私は、最近手荒れするようになったんだよな〜
と心の中で愚痴をこぼした
「代わろーか?」
『あ、大丈夫です
先輩は先にあがってください』
私の元にうらた先輩が
追加の洗い物を両手に持って来た
冷たい水に顔をしかめる私を心配してなのか
断ったはずなのに
先輩は少し乱暴に私の手から食器を取り上げる
「つめた…っ
あ、お前はあっちのゴミ捨ててきて」
指を指した方には
もう既にまとめられて
後は捨てるだけのゴミ袋がふたつ
これも先輩がまとめてくれたのかな
私は言われた通りに洗い物を任せて、
ゴミ袋を捨てに両手に袋をぶさらげて裏口の扉に向かった
.
『お疲れ様です』
「おつかれ〜」
いつも通り仕事終わりに
うらた先輩と更衣室で鉢合わせた
ロッカーを開けて、荒れた手に塗るハンドクリームと緩んだ髪を結ぶために櫛を取り出す
視線を向けると先輩はエプロンを外しながら
目だけをこちらに向けて私を見ていた
「今日も乗ってけよ」
『……お言葉に、甘えます』
こうやってバイトが被る日は
あがるタイミング関係なく送ってくれている
その優しさに甘えて
今日も先輩の車に乗せてもらうことにした
「明日だっけ?luzの舞台」
唐突に話を切り出されて
私は変に焦った
『そ、そう…ですね』
「何その反応(笑)」
実感は湧かないままだけど
明日、私はluzくんの舞台を見に行く
あんなことがあったとは言え、
さすがに貰ったチケットを無駄にするわけにはいかない
携帯の通知を見れば
《明日は楽しんでいってね》とluzくんからメッセージが来ていた
『行っていいのかな…』
「…」
こんな曖昧な気持ちは
間違いなくluzくんに迷惑をかけている
あのルックスでモテないわけないluzくんにも
女性絡みなんて山のようにあるはずなのに
私を選んでくれている
私なんかが…行ってもいいのかな
そう考えていると
頭に若干の重みと優しい柔軟剤がふわりと漂った
うらた先輩の手だ
「何回も言うようだけど、
後悔だけはすんなよ」
言葉の重みが
良い意味で私の胸に伸し掛る
後悔しないように
『いつもありがとう。先輩』
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名無しちゃん(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました、ガチ泣きしました、大好きです。これからの新作など応援してます(^^)! (2019年11月11日 4時) (レス) id: f7c3c5ac5b (このIDを非表示/違反報告)
ぽんず(プロフ) - 密かに新作楽しみにしています (2019年3月9日 12時) (レス) id: 98acc9f874 (このIDを非表示/違反報告)
あーやん - 完結おめでとうございます!!すっごく面白くて一気読みしてしまいました!めっちゃ感動しました...! (2019年2月9日 21時) (レス) id: e016ba62aa (このIDを非表示/違反報告)
Maa(プロフ) - 狐凪さん» ご名答でございます!!私の愛して止まない曲のひとつです。ここまでお付き合い頂きありがとうございました! (2019年2月9日 16時) (レス) id: 5b07d0752a (このIDを非表示/違反報告)
Maa(プロフ) - ティナさん» リクエストありがとうございました!!そう言って頂いて、書いてよかったと心から思います(;;)こちらこそ本当にありがとうございます! (2019年2月9日 16時) (レス) id: 5b07d0752a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Maa | 作成日時:2019年1月11日 20時