パンが起こした少女事件簿*2 ページ38
彼の言ういつも通りはわからないけれど、一般的に人と話す距離として適していない気がする。
「あの……」
「ああ、なんだ」
一歩近づくと、一歩後ずさりされる。
「……」
「……」
またまた一歩距離を詰めると、さらに後ろへ下がられる。なにこの攻防戦。もしかしてさっき抱きしめられたとき臭ったんだろうか。いや、まさかな。いくらなんでもそれはないはずだ。きっと。多分。おそらく。
「なんで離れるんですか?」
「は、離れてなんかないぞ!」
嘘だ。このままでは一向に進展しない。とりあえずここは、話を切り出してみることにしよう。
すると、俺が実行するより早くあちらが動いた。鞄に手を突っ込んでヒラリと一枚の布を取り出す。ええっと、あれは──
「ハンカチ?」
疑問符を浮かべる俺を前に、彼はハンカチを道路にゆっくり広げて下ろす。そして更に鞄から焼きそばパンを取り出して、ハンカチの上に丁寧に乗せた。
なに?今から何が始まるの?マジック?イッツアショータイム?
「何やってるんですか?」
訊ねると、ここまで無言で作業していた彼はビクッと肩を震わせてから、俺に背を向けた。
「そのパンを食べてくれ!!ではさらばだ!!!」
「えっ」
バシュンッと効果音がつきそうなほど素早く走り去っていく彼。呆然と立ち尽くす俺はただその後ろ姿を見つめることしかできなかった。
「なに?今の」
残されたのは、ハンカチに乗せられた焼きそばパンだけ。
「えぇ……どうしろって言うんだよ……」
お腹空いてるから嬉しいけど。でも問題はこのハンカチだ。流石に返さないとだよな?
俺はどうしたものかと考えて、結論を出した。
「ま、いっか」
冷静になってみると、彼は夢ノ咲の制服を着ていた。ならば校舎内で出会う可能性は高いはず。その時に渡せばいいやと思い直して、俺はパンと一緒にハンカチを拾った。
「こんなとき、ハンカチに名前が書いてあったらなー」
まあ幼稚園児じゃあるまいし、とハンカチを見るとあらビックリ。まさかの戦隊モノの柄。
「何で男子高校生が戦隊ヒーローがプリントされたハンカチなんて持ってるんだろ」
謎すぎる……。まあぶっちゃけ男の浪漫だったりするけど。何歳になっても男は秘密基地とか合体ロボに憧れるものなのだ。
あー、でも。もしかしたら年の離れた弟さんがいて、その子のを間違えて持ってきたとかかもしれない。
「っと、こんなことしてる場合じゃない!遅刻するっ!!」
俺は慌てて学校へ向かった。
__
パンくれた人…後から「故意ではないにしろ女の子を抱きしめしまった!!責任を取るべきなのか!?」と悶々としてその日は身が入らなかった。恋愛一年生。
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苺バニラ(プロフ) - りなさん» ありがとうございます!そう言って頂けると、嬉しい限りです!更新が遅めになっていて申し訳ない気持ちで一杯ですが、これからも頑張ります! (2019年8月20日 14時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
りな - 凄く良かったです!!面白かったです!!更新無理をせず頑張ってください!応援します!! (2019年8月20日 10時) (レス) id: 55c1958e88 (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - りさこさん» ありがとうございます(*´ω`*)とっても嬉しいですし、励みになりました!りさこさんは優しい方ですね!今後も頑張ります!! (2019年7月29日 7時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
りさこ(プロフ) - 更新お疲れ様です!とにかく最高でした!!これからも応援してます!! (2019年7月29日 0時) (レス) id: c7281289de (このIDを非表示/違反報告)
苺バニラ(プロフ) - 夜桜ナイフさん» ありがとうございます!時間が空き次第でよければ、拝見させてもらいますね! (2019年7月14日 16時) (レス) id: 563228d52f (このIDを非表示/違反報告)
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