尻軽彼女と純情彼氏【三ツ谷隆】

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　その日から父親は、母親がパートに出かける度に羽鳥の部屋に訪れた。


　やめて、やめてと悲痛な叫びを上げる羽鳥を押さえつけて、何度も何度も揺さぶった。


　羽鳥があまりも暴れると、ひとつ頬を張って、


　
　
「お前にはこれしかないんだから！ 少しは俺の役に立て！」
　


　
　と声を荒らげた。泣き喚く羽鳥の気道を閉めて、苦しむ顔を見て笑った。
　


　やがて羽鳥は抵抗を辞めた。父親が部屋に来ても、ただその時が終わるのを、天井を眺めながら待つだけ。父親は従順な羽鳥に満足そうに笑って、いい子だ、と頭を撫でた。


　
　しかしその生活も、長くは続かない。


　
　
「……あなた……？ 何をしているの……？」
　


　
　普段よりも早くパートから上がった母親が、現場を目撃してしまったのだ。


　父親は焦って羽鳥の上から飛び退いた。違う、と。こいつが誘ってきたんだ、と。好き放題に言葉を並べる。


　羽鳥は呆然とした表情の母親と目が合って、希望が見えたと思った。こんな行為もやっと終わる。わたしは解放されたんだ、と。
　


　母親はゆっくりと、羽鳥に近づいてくる。
　
　


「ママ、」
　
　


　羽鳥の瞳からは一筋の涙が零れた。母親に、弱々しく手を伸ばす。
　


　ぱしん、と冷たい音がして、羽鳥のその手は空を切った。
　


　
「この、アバズレが……！！」
　
　


　
　
「あんたなんて産まなきゃよかった！」
　
　


　
　
　もう、涙も出なかった。羽鳥は祖父母の家に預けられる事になった。



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