【文スト】恋と帽子と包帯と。

6*休暇と砂色。 ページ6

今朝も小鳥の囀る声で爽やかに起床…なんて事はなくて。


けたたましく鳴る目覚まし時計を、不快に塗れた気分で止める。



『ふわぁ〜…眠っ…』



ここ迄は何時も通り。


然し、上体を起こして目を擦ったその時気が付いた。



『今日！休暇だ！！』



偶には日頃の疲れを癒してきなさい、と首領からの御達しが出た。


首領は時に厳しく、時に優しく、時にロリコ……ゲフンゲフン…何時もだね。


兎に角、先代よりもずっと優しい人。


よし。


折角起きたのだし、何処か出掛けよう。


うん。思い立ったが吉日って云うし、早速準備をしようか。


お気に入りの洋服を着て、昔治が呉れたヘアアクセを身に付けて街へ飛び出す。


玄関の靴を見たところお兄ちゃんはもう出勤しているし、朝食は外で済ませればいいよね。


羽が生えたのかと錯覚する程軽く感じる足取りの中、向かう先は近くの喫茶店。


少しレトロな雰囲気の看板には“うずまき”の文字。


この間治にオススメされたのを思い出して、ふと立ち寄ってみたんだけど…



「いらっしゃいませー！」



扉を開けて中に入るなり、透き通るような店員さんの声。


アールデコ調で統一された涼しげなデザイン。



『うわぁっ…お洒落…！』



こんな素敵なお店を治が利用しているとは…って失礼か。


此方にどうぞ、と美人な給仕さんに一つのテェブルまで案内される。


内装だけじゃなくて働いている人まで綺麗だなぁ。


あ、治って若しかして此のお店の方(かた)がお目当てだったり？



「お客様、ご注文はお決まりですか？」



『あっ、じゃあ…此の“店長のお勧めセット“でお願いします。』



「じゃあ私は珈琲を一つ。」



…え？


気が付けば目の前で靡く砂色の外套。


ニコニコと笑顔を浮かべながら此方に向かって優美な手付きで手を振った。


手を振るその姿すらカッコよく見えてしまうのは、ルックスの問題。



「太宰さん、またツケですか？何時になったら払っていただけます？

生命保険で。」



「ふふ、其れは彼女と何時心中出来るかによるねぇ。…ね、A。」

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