【文スト】帽子幹部は私にだけ口数が少なかった筈なのに…【中原中也】

六十八言目 ページ23

菊池「冗談ですよね？そんな、好きな人の首を絞めれる人なんていませんよ」

笑いながら答えた菊池さんはきっと私の本当の恋人じゃない。
それは確実になった。

『俺の手で死ね』
『俺以外の前で死ぬなんざ許さねェ』

ふと頭を過ぎった声。
きっと私の本当の恋人。
独占欲の強い人じゃないとおかしい。
生易しい情の持ち主は私を飼い慣らせない。
でも私の記憶が間違っているのかもしれない。
夢で見た事を現実だと錯覚してるのかも。

貴方「そう、ですよね。まだ寝ぼけているのかもしれません」

菊池「もう少し休んだ方が良いですよ」

私の座るベッドの端に腰掛けて菊池さんは言った。
やっぱり違う気がする。
髪を梳く手、私の彼はもっと硝子細工に触れる様だった。
別に菊池さんだって雑な訳じゃない。
でも私の知ってる感覚はこれの何十、何百倍も丁寧なのだ。
確信的に違うと言えないのがまた困る。
私の記憶が夢と混ざっているのか、私の身に何かあったのか、菊池さんは『彼』ではないのか。
可能性はどれもある。けれど可能性の域を超えない。

貴方「じゃあそうさせてもらいます」

今は大人しく現状を知ろう。
もしかしたら何かしらの情報を話すかもしれない。
まぁ疑ってる訳ではないんだけど、思う事が色々ありすぎる。正しいものがわからない。
怖いのだ。全てが微妙に噛み合わない事が。

またベッドに寝て目を瞑る。
寝たフリをしながら菊池さんじゃないかもしれない『彼』の事を思い出そうとする。
どんな人だったのか。
先生、助けて。この私の髪を撫でる彼は『彼』なのかな。それとも…。

『ど…よう…し…ぶに…バレ…ら』

菊池さんの、声……？
あぁ、先生そうだった。私には異能があったね。
集中して菊池さんの声を聞く。

『瑞希さん上手くやってるかな。僕は上西さんを手に入れたけど、瑞希さんが失敗したら確実にここがバレる…』

瑞希さん……。
誰だっけ。知ってるけど、名前だけ。
それに手に入れたってやっぱり何かあったんだ。
じゃあこの記憶も菊池さんのせい……？
思い出したいのに尚更鍵がかかっていく様な気がする。
もしかして時間が立つに連れてどんどん忘れていくのかな。全ての記憶から『彼』が消えて変わりに菊池さんになるのかな。


早く来て。
教えて。
私が本当に愛した人が誰なのか。
来てくれるって信じてる。
私を本気で愛した人に違いない筈だから。

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