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五十一言目 ページ6

家に帰ってからというもの、中也は私を離してくれない。
今は私を膝の上に座らせたまま何やら考え事をしているみたいだ。

貴方「中也、座り難くないの?」

中也「あァ。黙ってそこに居ろ」

先刻からずっとこんな感じだ。
どうやら結局三人の意見は合わなかったらしい。
私を拷問班に入れたい首領。
入れさせたくない姐さんと中也。
首領はできるならさせればいい。
姐さんと中也はあんなの見てられないからさせられない。
どっちが勝ったのかは知らない。

中也何考えてるんだろう。
すぐ後ろにいる中也に意識を集中させる。
普段なら彼の思ってる事なんて聞きたくない。怖いから。
でも今は聞かないと理解出来ないし、何も喋ってくれなさそうだ。
徐々に声が聞こえ出す。彼の重く沈んだ声。重なる様に響くそれはどんどん大きくなる。

『何だったんだ、あれは。頼むから飲まれないで呉れ。彼奴がAの中に存在していた。何時自分を見失うかわからねェ。気づいてないだけで絶対に負担になってる筈だ。俺の手で死ね。俺以外の前で死ぬなんざ許さねェ。ならいっそ殺した方が楽か。他のヤツが触れる前に』

私を抱きしめていた腕の力が強くなる。
そんなに焦らなくても中也の手以外で死ぬ気なんてないのに。
座る向きを変え名前を呼ぶも彼の目は鋭さを増す一方だった。
それを無視して彼に接吻を落とす。何度も。彼の思考が止まるまで。
ねぇ、中也。殺意に溺れないでよ。中也の愛で死にたいんだから。そんな見え見えの殺意で殺そうなんてしないで。

そっと見た彼の目に先刻の殺意はなかった。
接吻をやめると彼は名残惜しそうに私の頬を撫でた。

貴方「ごめんね。聞いちゃった」

中也「いや、いい。……わかっただろ?手前の事考えると何も言えなくなンだよ」

貴方「でもあんな怖い目しないで。何時もの中也がいい」

自分の首に彼の両手を持ってくる。
少しひんやりとした手は彼にしては珍しいものだった。

貴方「どうぞ。今の中也にだったら殺されたい」

中也「ンな事、普通の女は考えねェよ」

貴方「普通の女じゃないもん」

優しい笑いと共に手に少しずつ力が入る。
嗚呼、こんな幸せあるんだ。
苦しくなっていくのなんて怖くない。
だってずっと大好きだった彼の手が私の首を締めてる。
死にたいという願望の強い私からしてみると、高級ブランドの服とか、中々手に入らないスイーツとか、何千万もする宝石とかより嬉しい。


見える彼の痕跡が欲しいだけ。

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設定タグ:文スト , 中原中也 , 紅野   
作品ジャンル:恋愛
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鶴媛(プロフ) - 紅野さん» わぁ!ありがとうございます!!お忙しいのに私の勘違いですみません!更新嬉しかったです、暑い日が続きますがどうかお体に気をつけてお過ごし下さい。 (2020年8月18日 1時) (レス) id: dda77e3f70 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 鶴媛さん» コメントありがとうございます。いえいえ!忙しくて更新が止まってしまっただけです!また空いてる時間で更新するのでご安心を…! (2020年8月18日 0時) (レス) id: b4d088780f (このIDを非表示/違反報告)
鶴媛(プロフ) - え、八十五話で終わりなんですか?かなり気になるところで終わってしまって少し残念に思います (2020年8月17日 4時) (レス) id: 5d76437753 (このIDを非表示/違反報告)
紅野(プロフ) - 橘明音さん» ありがとうございます。そう思ってもらえて良かったです。ゆっくりですが頑張りますね。 (2020年3月2日 11時) (レス) id: b4d088780f (このIDを非表示/違反報告)
橘明音(プロフ) - 最後のコメントありがとうございます。 私は受験終わったけど学校なくて本当に暇だったのでそう言って書いてくださること、本当に嬉しいです!更新楽しみにしてます。頑張ってください! (2020年3月1日 23時) (レス) id: 0fca2029db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紅野 | 作成日時:2019年2月6日 15時

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