四十九曲目 ページ50
ぱちぱち、と目を瞬かせてから、私を見て「マジかよ……」と小さく零す。
わいわいがやがやと祭りで盛り上がる人たちが行き交う仲、エバーグリーン達のためにもあまり大声で言わないほうが良さそうな情報を、私はできるだけラクサスの耳元に口を近づけることで伝える。
「S級昇格試験がかなり前にあったでしょう。あの時に、二人が組んでから意識し始めているみたいよ」
「……どうやって情報を仕入れてんだ、テメェは」
「あら、初代には遠く及ばないけれど私はこれでも軍師役を務めたりするのよ？ 人間観察は私の戦法のうちの一つよ」
唇に人差し指をあて得意げに笑いながら、もうコソコソ話す必要はないわね、と私はラクサスから距離をとる。
と、その時、慣れない下駄を履いていたせいで、下駄の歯が石ころに引っかかる。
「――あ、」
ぐらりと目の前のラクサスが揺れたかと思ったけど、次いで感じた胃がひっくり返るような不快感に揺れてる、いや、落ちてるのは私であることに気づく。
あぁ、転ぶ、とようやく思考が追いついたと同時に、ぐいと右腕に痛みと衝撃を覚えた。
詰めていた息を大きく吐き出すころには、私はラクサスの胸に抱き留められていた。
転びそうになった私の腕を咄嗟に掴み、引き寄せてくれたらしい。いまだに力強く握られた右手首と、引っ張られたことでジンジン痛む右腕に、私はどこか冷静に事態を整理する。
「……び、っくりした……ごめんなさい、ありがとうラクサス……」
「……ったく、他人を観察する前に自分の足元を観察したらどうだ」
「ちょっ、なかなかの言い草じゃないの！ ちょっとだけ足元が疎かになってただけでしょう！」
「俺が引っ張ってやらなかったら今頃その服は破けてただろ」
「うぐ……確かに、それはそうね……これ、借り物だから……」
そういわれて、私は弾かれたように浴衣の汚れの有無を確認する。特段どこも汚れていなさそうで、よかったと私は胸を撫でおろした。
そんな私をいつも通りの仏頂面携えてみていたラクサスは、すぐさまにやりと口端歪めて意地悪そうに笑う。
「借り物汚さずに済ませてやったオレへの感謝が足りねえんじゃねぇか」
「感謝ならすでに伝えたでしょう、この性悪！」
ニヤニヤと私をからかってくるラクサスに、私はついグレイにからかわれた時と同じような悪口を口にする。あ、と気づいた時にはもう遅くて、口から飛び出た言葉はもう取り消せない。
だけど、彼は笑みを崩さず、ただ目を細めて笑った。
続く
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作者名：始まりの神 | 作者ホームページ：
作成日時：2016年7月1日 1時
