四十八曲目 ページ49
「わしも挨拶まわりに行ってくる。ラクサス、お前も祭りを楽しめ!」
「ん……あ、あぁ……」
からかい交じりにルーシィを送り出す私をよそに、マスターも私達を残して歩き出した。
図らずも二人きりになってしまった私たち。さてどうしたものか、とラクサスのほうを盗み見ようとしたところ、ちょうど彼も私のほうを見ていたためバチリと視線が絡み合う。
今視線を逸らしたら負けというか、疚しいことを考えたと疑われてしまいそうで、つい視線が外せなくなる。そしてお互いを見つめあったまましばらく流れる気まずい沈黙。
とりあえず、とおずおず私は口を開いた。
「……一緒に、回らない?」
それにラクサスは目を見開いてから、無言でうなずいた。
***
相変わらずぎくしゃくとした気まずさを感じながらも、私はイカ焼きを頬張った。
もっちりとした食感と、祭りのせいで特別美味しく感じる味に舌鼓をうちながら再びラクサスを見やる。そしてようやく離れたばかりの視線は再び絡み合う。
「……私の顔に何かついてるのかしら」
テンプレな台詞だけど、聞かずにはいられなかった。
だってあまりにもラクサスがこっちを凝視してくるものだから。
「いや……悪い」
それだけを告げると、ラクサスはまた私から視線を逸らす。
「別に悪くはないのだけど。そうだ、今日雷神衆は一緒じゃないの?」
「最初は一緒にいたんだがな。ジイサンとそこで合流して、気づいたらいなくなってたな」
「あー、家族水入らずって気を利かせたのね。あとで見かけたら一緒に回るよう声かけとき……」
そう言いながら辺りを見渡した私は、そこで口を止める。視界に入ってきたのは、雷神衆の一人であるエバーグリーンの姿が見えた。
そして、その隣にいるのは。
「どうした?」
「いいえ、……いいえ、何でもないのだけど。エバーグリーンだけは、邪魔しないほうがよさそうね」
あらまぁ、と口元を抑える私の視線の先をたどって、ラクサスもエバーグリーンの姿を見つけたようだ。彼女の隣にいる男性のことも、同時に。
「エバと……エルフマン、か?」
「そ。だから見なかったことにしておきましょ」
ラクサスの服の裾を引いて歩き出そうとする私に、ラクサスは理解していなさそうなきょとり顔を返してくる。
確かに彼はこういうのに疎そうだ。私は背伸びをしてできるだけ彼の耳元に自分の口を寄せて、囁く。
「あの二人、多分お互いに片思いしてるのよね」
びっくり顔のラクサスは、少し可愛かった。
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作者名:始まりの神 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年7月1日 1時