四十五曲目 ページ46
握られた手は離されないまま、私達は互いに見つめ合った。
私がラクサスを驚きで見つめるのはいいと思うけれど、何故かラクサスも私を驚きで見ている。口を半開きにした、なんともな間抜け顔だ。
「……あなた、旅に出ていたんじゃないの?」
「あ、あぁ……今戻ってきたばかりだ」
「そう……」
納得したように、私は握られた手を動かす。
すると、自然な動きでラクサスは私の手を離してくれた。
「ギルダーツといいあなたといい、何故今日まとめて帰ってくるのかしら」
「……」
「……?」
返事がない。
相変わらず呆けたように口を半開きにしてこちらを見てくる。
私の顔に何かついているんだろうか。怪訝そうな顔をしながら、私はラクサスを見返す。
「……ラクサス?」
「……っ、……な、なんだ?」
「なんでそんな動揺してるのよあなた」
呆れたように溜息をつく。
どこか調子でも悪いのだろうか。
まるで壊れた人形のように目を泳がせながら、ラクサスは改めて私の顔を見る。
「……いや、……お前は俺のことを嫌っているんじゃなかったのか?」
「はぁ?」
自分でも驚くほど大声な、素っ頓狂な声が飛ぶ。
後ろのガジルも驚いたのが、気配だけで分かる。だけどそれを気にしているほど今の私には余裕がなかった。
「誰があなたのことを嫌ってるってのよ……」
「いや、だが……」
確かに私は率先してラクサスと関りを持つことはなかった。だからといって嫌悪を向けることもなかった。そもそも、ラクサスが引き起こしたバトル・オブ・フェアリーでだって私は当初石にされていたし、その後も仲間への魔力補充で奔走していたからラクサスを相手にする余裕なんてなかった。
彼が破門された後も、帰ってきた後も、拒絶することもなければ声一つあげることさえなかった。
その関りのなさが、逆に嫌われてると思われていたのだろうか。どっちかっていうと無関心だが、それはそれであまり良くないな、と思ってとりあえず誤魔化すことにした。
「あなたの周りにはいつも人がいたからどう近づけばよかったかわからなかったのよ」
「……そうなのか」
「そーなの」
勢いで押し切れば、流されてくれたみたいでそうか、とうなずいてくれた。
今度こそ帰ろうと歩きながら、尋ねる。
「で? ラクサスはなんで今日来たの?」
「あ?お前、忘れたのかよ」
ラクサスの言葉に今度は私が首を傾げる番だ。
当然と言った顔のラクサスに、告げられた。
「明後日は秋祭りだろうが」
……忘れてた。
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作者名:始まりの神 | 作者ホームページ:
作成日時:2016年7月1日 1時