二十九曲目 ページ30
返事は返ってこない。
しかも今まで私の背中を撫でていたルーシィの手がぴたりと止まった。
流石に呆れられたか、と思った矢先にハッピーの笑い声。
「……A……」
「ちょ、ハッピー笑うなんて失礼よ！」
「……いやまぁ、そのなぁ……っつかさ、俺ら多分同じこと思ってると思うぜ」
歯切れの悪そうなグレイの言葉。その言葉に、私は泣きそうになりながらも彼らを見上げる。
だけど見上げた先には彼らの笑顔。
ナツは、いつも通りのあの笑顔で答えて見せた。
「あいつらのことだから、きっと気にしてねーだろーよ！」
そう、自信満々に答えて見せた。
思わず目を見開く。
唐突にナツに腕を引っ張られ無理矢理立たされ、少しだけよろける。
すぐにナツは、ギルドに向かって歩き出す。
「わっ……な、ナツ、心の準備が……！」
「いらねーよそんなもん！」
3人(と1つ)分の手が、私の背中を押す。
それだけで一歩、私はギルドの中に足を踏み入れてしまった。
「俺らは、仲間なんだから」
押されたせいで、数歩たたらを踏む。
ようやくバランスを取ったと思ったら、私の体はとっくにギルドの中に入っていた。
「……ぁ」
途端に襲い来る複雑な感情。
恐怖や困惑が混ざりに混ざって、どうすればいいのか分からなくなる。
頭の中はまるでペンキをかぶせられたように真っ白になって、パニックで手も震えてしまう。
「……あれ、A？」
高い女の子の声に、びくりと体が震える。
握りしめた両手が次第に汗ばんでくる。心の中がテンパってきて、どう答えればいいのか分からない。
勝手に頭の中でナツを恨む。なんで私をこんな場面に押し出すのか。
私の背中を押してくれた、大切な仲間を恨みそうになる。
「お帰りなさい」
だけど、温かく降ってきた声に私は慌てて顔をあげる。
その視線の先には、声と同じくらい温かい笑顔を迎えたレビィがそこに立っていた。
「……ただい、ま……」
あまりの温かさとなんとなくの眩しさに、思わず反射的に返事してしまう。
と、レビィが目を見開いて固まった。
「……え？」
ものすごく気まずくなって、私は唾をのむ。
一体どうしたのだろうか。私が「ただいま」と返してしまったことは、そんなに驚かなければいけないことなのだろうか。
再び口を開け、何か弁明を述べようとしたその時、レビィが思いっきり腕を回して抱き着いてきた。
「Aが喋ったー！」
「きゃああ！？」
悲鳴をあげながらレビィを受け止める。
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作者名：始まりの神 | 作者ホームページ：
作成日時：2016年7月1日 1時
