十七曲目 ページ18
「礼を言われるほどではない。私達はただしたくてしただけだ。」
「でも結果的に私は救われたと思えたんだから、お礼は言わないと」
都合良すぎるかしら、と小さく笑う。それに対しエルザは、ゆっくりと首を振った。
そして再び私の顔を、正面からじっと見つめた。
「そこでお前に対してお願いがある」
「お礼と言ってはだけど、私に出来ることならなんでもしたいわ」
唐突に真面目な表情になったエルザに、少しだけ戸惑いを覚える。
それでも逃げることはせず、居住まいを正した。背筋を伸ばし、しっかりと座り込み真正面からエルザの視線を受け止める。
「無理強いはしない……」
そう前置きして、エルザは言った。
「私たちのチームに、入らないか？」
ドクリと鼓動が鳴った気がした。
表情を少しも動かさないまま、私は口を噤み何も言わない。
エルザも私の答えを待つつもりか、何も言ってこない。
そのまま、数分の時が流れた。
先に痺れを切らしたのは、エルザだった。
小さな溜息を零し、私から目を逸らす。
「……無理強いはしないと言っただろう。 嫌なら言ってくれればいい」
それでも私は少しも動かないままだ。
私が何も言うつもりはないと理解したのか、エルザは天井を仰ぎ呟いた。
「……とはいえ、私達のチームもチームと呼べるか怪しいものだがな。自然にできた集まりだ。チーム名もなければ、リーダーと呼べるものもいない。ただ、気づいたら常に共にいた」
優しい瞳。
まるで慈しむような瞳で、彼女はそう語る。
その瞳と、声音……すべてが、彼女がこのチームを心より愛しているのだと理解できた。
ようやく私の指先が少しだけ動いた。
そのまま、膝の上できつく握りしめる。
少しだけ、手の感覚が戻ってきた。
まるで映画でも見ているようだ。
筋肉が少しも動かない、そんな感覚に浸っていた。
だけど、本心から喋りたい、とそう思えば唇はゆっくりと動いていく。
「……ごめんね」
「いや、謝らなくていい。私のほうこそ、無理言ってしまってすまない」
「違うの」
エルザの言葉に被せるように私は言う。
もう一度、違うの、と同じ言葉を弱々しく呟いた。
その声は、情けなくも震えている。
「……A？」
心配そうに私に名前を呼ぶエルザの声が聞こえた。
それでも俯いた私は、顔をあげることはできない。
「……ごめんね、エルザ。 少しだけ、考えさせて……」
「……あぁ、わかった」
小さく笑ったエルザは、部屋を出ていった。
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作者名：始まりの神 | 作者ホームページ：
作成日時：2016年7月1日 1時
