115◆昼下がりは番犬が嘶く◆ ページ22
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「――ああ、タイガ。Aの様子はどうだった?」
「駄目だな。あのクソアマ、返事の代わりに灰皿投げてきやがった。今無理やり部屋に入ったら確っ実に殺される」
「そうか…」
端整な顔を歪め、氷室は「仕方ないな」と呟いた。
火神も呆れたようにため息を吐きながら、赤くなった頬を労るように撫でる。先程、Aにぶつけられた灰皿の痕だ。
どうやら、Aは今すこぶる機嫌が悪いらしい。
原因は不明。ただ確実にわかることと言えば、恐らくはキセキの世代の誰かと揉めたのでは、ということだ。
当人は口を閉ざし、話を聞こうとするものなら手身近な物を手当たり次第投げてくるので、火神もお手上げ状態なのであった。
「誰とトラブルになったかわかるか?」
「さあな。青峰や黄瀬ならアイツらの態度でわかるだろうし、緑間なら高尾がいるからAもそれほど機嫌悪くなることもねーだろうし…」
「アツシ…でもないだろうね。だとしたら、黒子くんか赤司くん…?」
「黒子もちげーと思う。赤司は…あー、可能性あるかもしれねえけど…」
火神は脳裏にあの赤き皇帝を思い描きながら思案する。
彼には、つい今朝に「火神Aに近付くな」と警告したばかりだ。
しかし赤司はそれを無視してAに接触したと考えられるが…本当にそうなのか、真実はわからない。
――いや、赤司じゃなくて…桃井か?
そちらの可能性も十分あると火神は考える。
桃井はAに対し、強い執着――あるいは執念のようなものを向けていた。
その桃井が接触したのならば、何かの拍子にAの気に触れるような行動を起こしていても不思議ではない。
やってくれるぜ、と心の中で忌々しげに吐き捨てる。
「――チッ…めんどくせえな」
「まあそう言うなよ、タイガ。Aが手のかかる娘なのは昔からだろう?」
「そーだけどよ。ちっとはこっちの身にもなってほしいもんだぜ…」
火神の言葉に、苦笑しながら氷室が同意する。
昔から凶暴で我儘で手がつけられない妹ではあるが、有り難いことに仕事だけはしっかりとこなす律儀さだけはある。現に、部屋に閉じ籠る前に昼食だけしっかり用意されていた。
夕食前には部屋から出てくるだろうが、どうせ練習終わりの自分達と入れ違いに出掛けてしまうだろう。
きっと今日はもう顔を見ることは叶わない。
「しゃーねえな、」という火神の瞳は、呆れ混じりの中に剣呑さを宿していた。
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あかりんご(プロフ) - ずっっっと待ってます、また更新してくれるのを楽しみに待ってます! (2021年4月11日 16時) (レス) id: 9550685691 (このIDを非表示/違反報告)
何卒 - 続き待ってます…。不安定な所での更新停止中なので何だかウズウズしてしまいます…。 (2020年2月9日 3時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
ミズキ - こ、ここで?ここで更新停止中なの?!めちゃくそ気になんじゃん…更新頑張ってください!楽しみにしてます! (2019年11月21日 18時) (レス) id: da8ce484b3 (このIDを非表示/違反報告)
紫水(プロフ) - とてもおもしろくここまで読ませて頂きました!この後キセキと真白ちゃんがどうなっていくのか、とても気になります…!お話の続き、待ってます!! (2019年11月2日 13時) (レス) id: 4db15d5771 (このIDを非表示/違反報告)
honoka1013(プロフ) - この続きがとても気になります。更新を再開してくれませんか?楽しみにしています (2019年9月3日 15時) (レス) id: f57eb90381 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縁樹 | 作成日時:2016年12月24日 5時