97◆自分の知らない彼女のカケラ◆ ページ3
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ガヤガヤと賑やかな声で溢れる食堂で、火神は一人で朝食をとっていた。
基本的に大喰らいな彼は、食べることに集中しすぎるあまり、誰かと一緒の席で食べていても談笑の和に加わることは少ない。話を振られたら答えるが、そうでなければただひたすら食べている、といったことが多い。誰かと一緒に食べるという行為は嫌いではなく、むしろ好きの部類だ。
しかし今朝の火神は、黒子や降旗と同じ席に着かず、あまり人通りのない席に座って食べていた。
黙々と大盛りの朝食を口に頬張りながら考えていたのは、自身の妹であるAのことだった。
――アイツでも、泣けたのか。
今朝、火神は監督であるリコに揺さぶられて目が覚めた。まず男しかいない部屋に女のリコがいることに驚く。しかしリコは全くお構い無しに火神を急いで起こすと、Aが魘されているようだと教えた。
リコとAは同室ではない。Aが誰かとの同室を嫌がったために彼女だけ一人部屋に宿泊している。
たまたまリコがAの部屋の前を通った時に、彼女の部屋から呻くような声が聞こえてきたので、火神に伝えに来たのだ。
そうしてAの様子を見に行くと、Aは悲しげに魘されながら――涙を流していた。
火神にとっては、大きな衝撃だった。
彼女が悲しいと感じたこと、涙を流していたこと、泣いていたこと。
常に何かに苛つき、常に何かを嘲笑いながら生きている彼女に、『悲しむ』という感情があったことに驚いた。
あの時のAの表情は、記憶の中のどのAとも結び付かない。初めてだったのだ、あんなにも弱々しいAなど。あんな、今にも何処かへ消えてしまいそうな――
「……やっぱ、練習前にもっかい様子見に行くか」
考えているうちにだんだんと心配になってきた火神は、食事のスピードを早める。咀嚼して飲み込んでいるのか疑わしいそのスピードに、「こらバカガミ!もっとゆっくり食べなさい!」と怒号が飛んでくるが、火神は構わず食べ続ける。
「そんなに急いで食べると、喉に詰まらせるぞ」
「!」
真正面から声がかかり、火神は誰かが自分の真正面の席の前に立っている事に気付いた。
食べることに集中していたため、周りが見えていなかったのだ。
呆れた様な、はたまたその食べっぷりに感心したかの様にかけられたその声に反応して顔を上げる。
そこに居た意外な人物に、火神はぴたりと食べる動作を止めた。
「赤司……」
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あかりんご(プロフ) - ずっっっと待ってます、また更新してくれるのを楽しみに待ってます! (2021年4月11日 16時) (レス) id: 9550685691 (このIDを非表示/違反報告)
何卒 - 続き待ってます…。不安定な所での更新停止中なので何だかウズウズしてしまいます…。 (2020年2月9日 3時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
ミズキ - こ、ここで?ここで更新停止中なの?!めちゃくそ気になんじゃん…更新頑張ってください!楽しみにしてます! (2019年11月21日 18時) (レス) id: da8ce484b3 (このIDを非表示/違反報告)
紫水(プロフ) - とてもおもしろくここまで読ませて頂きました!この後キセキと真白ちゃんがどうなっていくのか、とても気になります…!お話の続き、待ってます!! (2019年11月2日 13時) (レス) id: 4db15d5771 (このIDを非表示/違反報告)
honoka1013(プロフ) - この続きがとても気になります。更新を再開してくれませんか?楽しみにしています (2019年9月3日 15時) (レス) id: f57eb90381 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縁樹 | 作成日時:2016年12月24日 5時