*黛千尋のわがまま*1* ページ30
電話の鳴る音で、私は野菜を切っていた手を止めた。軽く手を洗い、受話器を取る。
「もしもし?」
『もう1回』
「ええ…………」
電話の向こうから食い気味に返ってくる不満げな声。
……何ともおかしなやり取りだが、これが我が家の日常だ。
『な、頼む』
「うう、何も毎回やらなくても……」
とは言うものの、これくらいで引き下がってくれる相手ではない。
本当に物好きだなあ、と思いながら、私はふと息を吐いて、お望みの台詞を口にする。
「もしもし、黛です」
『うーん素晴らしい響きだ、今から帰る』
「……やれやれ…………」
うちの旦那は、いわゆる「ベタな事」が大好きである。
例えば先程の電話で名字を名乗る事然り、
玄関先での「ご飯にする?お風呂にする?」以下略然り
(『それとも』はそれともしない癖に言わせるなと主張した)、
行ってらっしゃいとおかえりなさいのキス然り。
新婚だから許しているけど、正直恥ずかしいったらありゃしない。
千尋はラノベの読み過ぎだ。もしかしたら関係ないのかもしれないが。
と、スープの具を全て鍋に入れ終えたタイミングで、再び鳴る電話。
掛けてきた番号は________さっきと全く同じもの。
「はいもしもし黛です。どうしたの?」
また文句を言われても嫌なので、今度はきちんと言っておく。
『自然な感じも良いな……』
「ああもう、そこじゃないでしょ千尋!」
『悪い悪い。それで本題だが、何かデザートを買って帰ろうと思うんだが何が良い?』
「え?わざわざそんな事してくれなくても良いのに」
『出張帰りなんだし良いじゃないか』
「うーん、千尋がそう言うなら……」
言われて、私は数秒考える。ちなみに、千尋は生来の面倒くさがりが高じて
「とっとと仕事終わらせて定時に帰る」を入社直後から実践したために、
「仕事のデキる奴」認定を受けてちょくちょく出張に行っている(行かされている?)。
器用なのか不器用なのか…………ちなみに今回は静岡だ。
「じゃああれ、静岡っぽいものが良いな」
『なるほど分かった。じゃあまた駅に着いたら連絡する。何回も悪いな』
「ううん、楽しみにしてるね」
ピ、と通話を切って、私は晩御飯の準備を再開した。
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ゆな子(プロフ) - 高尾ちゃん&笠松&黛は一番キタわ。心臓が3ついりますね。 (2019年8月27日 17時) (レス) id: 590d5b732c (このIDを非表示/違反報告)
赤 - 最高でした。赤司くんと黛さんのが特に最高でした。きゅんきゅんしました!!!! (2018年9月4日 12時) (レス) id: 14fcda4380 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか - 大ちゃんありがとうございます!いつも楽しく読ませて貰ってます!!大ちゃんに萌えましためっちゃ(笑) (2017年9月30日 8時) (レス) id: b6dcf803c3 (このIDを非表示/違反報告)
伊月千歳@白咲智歌(プロフ) - もろへいやさん» そうなんですか!わかりました! (2017年9月24日 9時) (レス) id: e71731f15b (このIDを非表示/違反報告)
もろへいや(プロフ) - 伊月千歳@白咲智歌さん» 大変申し訳ないのですが、こちら残り話数がかなり少ないので、現在リクエストにはお応え出来ません。本文中に明記せず本当にすみません……ご理解頂けると幸いです。コメントありがとうございました。 (2017年9月23日 23時) (レス) id: 0747be2c14 (このIDを非表示/違反報告)
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