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産屋敷の判断で、Aの
燃やしてくれとあったが、恥じるべきことも不名誉なことも書かれていない。それが最終的な決定だった。
また、同封されていた紙に書かれた所在地へ向かった先に、とても古いが立派で綺麗な墓と、小さくて見窄らしい墓が並んでいた。
Aの骨を、小さなほうに納めておいた。隣の墓の主が誰かは一目で分かる。彼女は死んでも彼の隣にいたいのだろう。
少しずつAのいない日常が当たり前になり、だんだんと痛みも悲しみも薄らいでいく。そこに寂寥感を覚えながらも、しのぶは与えられた仕事に勤しんだ。
今日も、Aの望んだ通り、平和な世界だ。
彼女の死から実に十年の月日が経つ。しのぶは例年通り、新年度への準備に追われる他教師陣を尻目に帰路についていた。
桜の花びらが舞っている。冬の厳しい寒さが和らいで、春の陽気を感じられる日だ。
そういえば、彼女とすれ違ったのも、こんな春の日の、この場所だった。
「待って、お母さん!」
なんてことのないセリフ。幼子の声。背後のストーリーを容易に想像できる、前方にすたすたと歩いて行ってしまう母親と後を追う娘の姿。
年端もいかない女児の手を、反射的に掴んだ。
振り返る、一本一本が流れるように靡く、濡れたように艶やかな黒髪に赤いカチューシャ。
丸くころんとした濃い桃色の瞳。
一目で美人に育つと分かる容姿からはどこか人間離れした風貌を思わせる。
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