* ページ16
.
月並みな言い方をすれば、スローモーション。その瞬間の景色が映画を観ているように映った。まるで他人事かのようだった。
私が何をするか察して慌てて手を伸ばしてくるが一歩遅れた炭治郎たち三人。前世での業が深く、今世でも大した関わりのない私を、反射的に本気で助けようとするなんて、つくづく人間の気持ちは分からない。
浮遊感のさなか、視界にはいっぱいに青空が広がっていた。死への恐怖は一寸足りとも持ち得ていないのに、体は危機を察してぞわりとしたものが背中から腹の奥に走る。走馬灯の中で彼の声がした。
空が青いね。
私は笑う。
ああ、そうだね。とても綺麗だよ。
「──勝手に終わらせてんじゃねェぞくそボケがァ……!!」
意識が飛びかけたために、何が起きたか一瞬分からなかった。肩に加わる衝撃と、私の手を掴む何か。はっとして見上げた先に、目をギラつかせた実弥がいた。
「……さね」
何かを言う前に軽々と引き上げられた。勢い余って屋上に叩きつけられる。息が詰まって、その後肩の激痛を自覚した。脱臼を起こしたのだ。
動揺しながら視線を上げると、冷徹に私を見下ろす漆黒の瞳とかち合う。
「死んで楽になろうなんて甘えは許さねェ。次やったらぶっ殺すぞォ!!」
「……は、どっちだよ……」
最後に君たちに迷惑をかけて死んでやろうと思ったのに。
体を起こすと同時に屋上の扉が開いた。
「……しのぶ」
「……!」
.
39人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ