チェック▽ ページ7
瞬きをする余裕もなかった。
私は目を閉じることもできずに、ゆっくりと彼の温もりに呑まれていく。互いに少し熱を帯びた身体が、周りの空気に熱をもたらす。とても温かい。
直に彼を感じていた唇は、離れた後もその余韻を暫し残していた。
「ほんと、Aかわいい。好きだよ」
目を細めてそんな甘い台詞を吐くものだから、胸の奥がぎゅうっと締め付けられる。
今の私にそんな台詞は酷すぎる、これ以上私を惑わせないでほしいのに。
そんなことを言われたら、私が馬鹿みたいだ。
いかにくだらない夢に憑りつかれていたのかに気づいて、話の続きがためらわれる。
「もう、分かったから。さっきの話は続けなくていいよ」
また私の胸中を見透かしたように彼は笑うのだ。
そんなに感情を表に出すほうでもないし、そんなに分かりやすい奴だなんていう自覚はないのに、彼には全部透けて見えてしまうというのか。
だとしたら彼は本当に優しくて意地悪だ。全て話して理解してハッピーエンドで終わる前に、それは優しく私の唇を塞いでしまうのだから。焦らして期待までさせて、私は掌でコロコロと踊らされっぱなしだ。
幸せなエンドロールは、いつになったら流れるのだろう。
「ぜ〜んぶ、分かってるからねぇ……ほら、おいでよ」
「……っ、うん」
深い紅の宿った瞳と甘ったるい声に誘われるまま、再び距離を縮める。
思わず顔をうずめた胸元と背中に回された手は大きくて心地よい。こちらも背に腕を回せば彼の温もりと匂いが一層強くなってとんでもなく落ち着く。
肩に顔を埋めていた彼はすん、と一度息を吸ってからおもむろに顔を上げこちらを見据えた。
形のいい唇に乗せて出た言葉は、ほんの少しチョコレートの香りがした。
「じゃあ、答え合わせしよっか」
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作者名：雫月 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年2月14日 23時
