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(菊地原士郎視点)
トラックの運転手席側の扉が勢いよく開かれると、中から運転手だったであろう男性を、尊が背負って出てきた。
男を引きずり、トラックから離れ様と懸命に足を動かしている。
尊の歩く地面に、赤い道ができていた。
ぼくはその光景に、やっと体の金縛りが解ける。
「尊!!」
駆け寄り、男を背負うのを手伝う。
急ぎトラックから距離を取り、その場にしゃがみこむ。
意識のない男を地面に寝かせる。
男には少しガラスで擦れた様な怪我はあるが、それ以外負傷は見当たらない。
「尊、ねぇ、大丈夫、ねぇ!返事しろ!」
尊は、男を寝かせてから放心した様にしゃがみ込んだままだ。
左足が、明らかに変な方向に曲がっている。
お気に入りだと言っていた服はガラスに引っかかりズタボロで、自慢の肌だと言っていた顔や手足も切り傷だらけだ。
右手から血がぼたぼたと流れてきている。
「きくちはらくん…」
「そうだよ…自分が何したかわかってる?頭は正常?これ何本に見える?」
「菊地原君…」
「質問に答えてよ……」
「菊地原君が生きてるぅ〜うぁあああああん!!」
尊が腕の止血をしていたぼくに抱きつく。
「ちょっ…だから死にそうなのはあんたなんだって……止血させてよ…」
「あぁああああ〜!!こわ"かったぁ"ああああ!!菊地原くん"が死んじゃう気がっしてぇっ、うっ、うぇっ、痛いぃ〜いたいよぉっ」
わんわん泣き喚きながらぼくに必死に抱きついてくる。
血と涙でぼくの服もぐしゃぐしゃだ。
ぼくが死ぬ気がしたとか…それもいつもの勘?
そう言おうと思ったが、痛い痛いと泣く尊に、声が出なかった。
こいつは、髪の毛一本抜く程度の痛みですら泣く様な奴だ。
…痛いのが苦手とカミングアウトされた時に実際試した。
痛いのだけは絶対に嫌。絶対に痛い事はしたくない。
それが口癖の様な、そんな、ヘタレ。
「うぇえっ、うっ……菊地原君は、痛くない?平気?どこも怪我してない?生きてるぅ"…?」
「あー…はいはい、生きてる、生きてる」
「ゔぅぅ…いたいけどよかったぁ"……」
震えながらもぼくに抱きついてきて、何度もぼくに生きているかと聞いてくる尊に、漠然と、ぼくは今日死んでいたのかもしれないなと思った。
「ほんとバカ…痛い事は絶対にしたくないんじゃなかったの…」
「菊地原君が死んじゃう方がやだぁあっ」
救急車が到着するまで、子供の様に泣き噦る尊に、何度も生きてるよと答えながらあやし続けた。
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アップルパイになりたい(プロフ) - 更新待ってます! (2023年1月30日 15時) (レス) @page46 id: fcb69bf060 (このIDを非表示/違反報告)
例のやつ - 面白くて腹筋痛い…続きをお待ちしております! (2021年11月7日 21時) (レス) @page46 id: 5d3b9960b6 (このIDを非表示/違反報告)
そらちゃんです!!(プロフ) - 応援してます! (2020年6月19日 10時) (レス) id: c4f3cb5b0b (このIDを非表示/違反報告)
美桜琉(プロフ) - 面白すぎて1話から一気読みしちゃいました!笑 更新待ってます!頑張って下さい! (2019年11月2日 17時) (レス) id: 95c48d4791 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこ豆(仮)(プロフ) - 更新待ってます! (2019年5月11日 22時) (レス) id: 97b4437434 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんにゃくの様な何か | 作成日時:2019年3月11日 18時