09:自身が朽ちてしまえども。 ページ9
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「また例の女の子の家に行っていたのかい?」
午後の授業終わり。
隣に座っていた傑が突然そんなことを呟いた。
席を立ち、廊下でどうして分かったのかを聞けば「目の下の隈を見れば一瞬だよ」と目を細める。
オウム返しをするように、そっと目の下をなぞった。
「夜勤を増やしてちゃ体は持たないだろ。大体、事の発端のレンタル彼氏はどうしたんだ。ルックスを活かせば絶対儲かるってあんなにいきこんでたくせに」
「そっちは最近辞めた。態度が悪いとかなんとかでクビなりかけだったんだからいい機会だろ」
そう言い返すと、呆気に取られたような表情をして傑は立ち止まった。バイトを辞めることくらい、別になんら不思議なことじゃねぇだろ。
俺がガキに執着していることへの呆れか、はたまた心配か。深く息をついて軽く俯く。
「一人の子供の為に君がそこまでするなんて....少し過保護すぎるんじゃ、」
「あいつの腕にデカい痣が何個もあったんだよ」
遮るように言うと、木目をなぞっていた瞳が俺を見た。
一歩先で止まっていた俺に近づくように歩みを進める。
「当の本人は何も言ってこない。多分腕以外にもあるだろうし、原因は親か学校の連中かだ」
ズレた足音が揃ったとき、傑の口調が納得したように聞こえた。仕方ない奴だと、そう言われているような気がした。
「....なるほどね。でも会う口実はどうしてるんだい」
「辞めたことは伝えずにレンタル彼氏の立場を利用してる。レンタル料として渡されてる分は全部あいつの為に使うか別で貯めてるから心配すんな」
軽く背中を叩いてやると、「第三者から見れば犯罪予備軍の仲間入りだね」なんて笑った。
「違ぇし」つっても聞く気はない。でもそれが嫌味ではないことは、手に取るように分かった。
寮へ向かう分かれ道、「今日は何時帰る」とか「晩メシがいるかどうか」とか、いつも通りの会話をして別れを告げる。
現在時刻を確認しようと携帯を覗き込んだとき、さっきの俺よりも強い力で背を叩き、傑は微笑んで言った。
「力になれることがあればなんでも言ってくれ。私達は親友なんだから」
___Aの家の最寄り駅へと向かう電車に乗りこみ、肩の荷を下ろした。
途端に、昨日Aに言われた言葉がフラッシュバックする。
「....俺の口実、どんな男よりもセコいな」
電車の揺れが、何故か居心地悪かった。
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暁月臨(プロフ) - 最高すぎます、、、、!!更新頑張って下さい!応援してます!!! (8月18日 3時) (レス) @page21 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
くま - めちゃくちゃ好き過ぎます。更新待ってます (7月30日 20時) (レス) @page19 id: 7f92ff71c6 (このIDを非表示/違反報告)
匿名さん - ひらがなオンリーじゃなくて、漢字も使ってるのに、小さい子供っていうことが伝わってくるの、読みやすいのに、感情も伝わってきて、本当にすごいですね!何度も読み返しちゃうくらい好きです!これからも頑張ってください!応援してます! (7月30日 1時) (レス) @page19 id: bca78c906d (このIDを非表示/違反報告)
来世 - 大好きです! (7月18日 15時) (レス) id: 23ef5c5b40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - は………?何これ好きすぎるんだが!?どうしてくれるんですか!神すぎるうう!(うるさい) (7月5日 0時) (レス) @page18 id: a3aa2404cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年3月28日 17時