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「千ちゃんあと1つなんでしょ」
「そう」
「でもキャンバス真っ白じゃん」
ここは俺のアトリエ。
アーケード街の空き店舗を借りている。
そこに宮っちと玉が来た。
ただ2人は遊びに来たようだ。
「朋枝ちゃんの絵すごく綺麗だよ」
「へえ、それは楽しみだね」
朋枝ちゃんというのは玉の彼女の村田朋枝ちゃん。
俺の美大の時の後輩でもあり、今回展覧会に参加するメンバーでもある。
今回の展覧会を開催する目的はただアートを魅せるというのもあるが、まだ世間に見つかってないアーティストを発見してもらいたいというのもある。
だから朋枝ちゃんの絵も誰かに見つかってくれればいいなと思う。
「朋枝ちゃんから聞いたけど伴さんも出展するんでしょ」
「そうなんだ」
「うん。俺のアシスタントばかりさせてちゃ申し訳ないから」
Aちゃんは元はアーティスト志望だった。
だけどなかなか芽が出ないので俺の師匠が彼女を俺に宛がった。
だけど仕事は俺のアシスタントばかり。
これじゃ腕が磨けるのか疑問符。
だからAちゃんにも声をかけた。
彼女は快諾してくれた。
「Aちゃんの進み具合どうなんだろ」
「ここで描いてないんだ」
「うん。俺に内緒だって自分の家で制作してるみたい」
Aちゃんが出展するのは2つ。
彼女の作品は大胆さと緻密さが同居してるというのが魅力だと師匠は言っていた。
「千ちゃんはさ、進展させる気ないの？」
すると宮っちがぶっこんできた。
そういう宮っちは最近彼女が出来た。
「宮っちが言う？俺たちに散々言われたのに」
「だからこそだよ。皆のおかげで俺は玲美ちゃんと付き合えることになったんだから言わせてよ」
「玉だって宮っちだってなかなか普段の関係から抜け出せなかったじゃん」
「…………」
こう言えば二人は口を閉ざしてアイコンタクト。
「じゃあ千ちゃんも何か出来事があればいいんだね？」
「そんなに転機になることって起きる？」
「起きるから俺も宮っちも今がある。というかそれ今じゃないの？」
「展覧会が？」
「そう」
二人は見事にハモった。
俺はあと1作作らなくちゃいけない。
その作品の方向性は何一つ決まっていない。
だったら……。
「ちょっと描いてみようかな」
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作者名：ユタカ２ | 作成日時：2021年11月23日 14時
