引退。【浦島坂田船】

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その日の記憶は無かった。

汚い家に1人で住む私、だけれど綺麗な家に、懐かしい匂い。





「起きたが？」

『…ぇ、あれ、？』


「話しとる最中に倒れたから、俺ん家、…連れてきたんやけどあかんかったが？」

『…ぇ、ううん、ありがとう。』



もう知り合いでもない、友達でもない私を家にあげるなんて、どれだけいい子なんだろう。

懐かしい、全てが。




「…おれ、大阪行くんよ。」




ああ、進路。

高校生になった私達は次の道を探さなきゃ行けない。


高知から2人で出て、2人で同じ高校に行こう、なんて約束して。




『…そう。』

「…おん。」




『じゃあ、元気でね。』

「…っ、A。」




自分の言葉は凶器になる。

亡き父親に言われた言葉。お前の行動全ては凶器にもなる。

傷つけないように、刃を隠して。





『夢、叶うとええがやね。』

「…ッ、！」






昔聞いた事、変わっていなかったらいいのに。

夢、叶ったらいいね。なんて、皮肉に聞こえるかもしれないけれど。




「止めて、くれんがやか。」

『…？』




「おまんはいつもそうちゃ、俺がおらんなっても生きてけるなんて言うき、そう言って無茶するき、なんやが。

おれに、少しでも頼ってくれたらええが、なんでそれをしてくれんの？」



「…一緒に夢、追いかけるんとちゃうんかったん、」






ああ、忘れてないんだね。






"「将来、志麻とAは声のお仕事につきます！えへへ、約束やがよ〜？」"





『…大阪、なら…私は東京。』

「へ、？」



『お互いに頑張ろうよ。私は東京で頑張る。だから志麻くんは大阪で頑張って、また20になった時に一緒に会おうや。』








小さい頃から一緒に、だけど成長途中だから。








「おん！また20になったら、俺が東京行くき、待っとれよ。」







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