Lillyの王様 ×seven×《ars/s.s》 (ページ4)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:135,932 hit

Episode38 -4 ページ4

.

「なんだ翔ちゃん、起きてたの？」

ナイフを持つ腕を掴まれたまま、二宮さんが翔さんの顔を見る。

上体を起こした翔さんは同じように二宮さんの腕を掴んだまま、「まぁね」と返事をした。

私は二宮さんから距離を取ってベッドを挟んで反対側へと回る。

私の顔を見上げて、翔さんは飛び切り優しい顔をした。

「怖かったよな。ありがと、A。頼み聞いてくれて」

「いえ…」

「……なんだ、俺が戸羽さんを狙うってわかってたわけ？」

二宮さんは降参だとでも言うように両手を上げた。

もう攻撃の意思がないと判断したのか翔さんは二宮さんから手を放す。

代わりに、反対の手で私の手に触れた。

「ほらA」

「…はい」

翔さん、震えてるの気づいてたんだ。

そう思いながら私は翔さんの手を握る。

手はまだ震えているけれど、翔さんの手に包まれて少しだけ落ち着きを取り戻す。

翔さんのお願い、とは。

翔さんが寝たふりをしていることを悟られないこと。

そして、二宮さんに背を向けること。

その二つだった。

翔さんと繋いだ私の手を見て二宮さんがため息を吐く。

そして、ナイフを床に放り投げた。

からん、と、意外にも軽い音がしてナイフが転がる。

「俺の作戦ミスかな」

「……退院が決まればすぐにでも動くと思ってた。だから、今日行動に出る可能性が一番高いと思った。会社に電話を掛けるだけなのにすぐに帰ってこなかったし、談話室でも見かけてないってこいつが言ってたから」

「…もっと早く準備してりゃよかったのか」

「そうかもな。…お前にしては珍しいミスだよ、カズ」

「そうだね」

二宮さんが苦笑いをしている。

私は二人のやり取りの意味がよくわからず、翔さんの顔を見た。

翔さんが悲し気に凛々しい眉を下げる。

「A、お前をつけ狙ってた本当の犯人はカズだよ」

「っ！」

「つけ狙ってたって、それはあの徳井って女だよ」

ひゅっと喉で息が擦れる。

私のことなんか気にもしていないのか、二宮さんは心外だと言いたげに肩をすくめた。

.