Episode5 -5 ページ40
.
けれどそれは一瞬で、次の瞬間にはいつもと同じ笑顔が戻ってきていた。
鋭くなった視線は何かを見定めるように薔薇を見ていた気がしたけれど、実際のところはわからない。
「奇遇ですね、俺も嫌いなんです、薔薇」
「え？」
微笑みの表情を戻した櫻井さんは、けれど低いトーンで静かにそんなことを言った。
私の顔をちらりと見た目はすぐに少し下へと逸れる。
「そう…なんですか？」
おずおずと問い返すと櫻井さんはこともなくうなずいてそのチョコレート色の瞳で薔薇を捉える。
心なしか凛々しい眉が吊り上げられたような気がした。
「大嫌いな人が薔薇が好きだったんです。いつも薔薇の香りをまとっていて、薔薇の花を飾っていて…薔薇を見るとそれを思い出す。だから嫌いなんです。薔薇の花だけじゃなくて、薔薇を彷彿とさせるものが。……あの人を、思い出してしまうから」
たとえ嫌いなものの話でも、人は過去を思い出すときにどこか遠くを見る。
大きな目を少し細める櫻井さんの目には薔薇越しにどんな人が映っているんだろうかと、そんなことが気になった。
ざわざわと揺れる胸の内を押し込めるように、私も口を開く。
「……これも奇遇…って言っていいんですかね。私も似たようなものなんです。昔、さよならをした人……その…恋人が、よく薔薇をプレゼントしてくれていました。薔薇はそのころを思い出すものなので、好きではないんです」
恋人、という言葉を口にするのに少しだけためらったのは相手が櫻井さんだからだろうか。
それともただ単に、思い出したくないだけなのか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 758人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
iCHiKA(プロフ) - あまさん» コメントありがとうございます。前作からのお付き合い感謝いたします。習慣ですか！とても嬉しいです。引き続き楽しんでいただけるように頑張って執筆していきますね！お付き合いよろしくお願いいたします。 (2019年12月22日 17時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
あま - 前作から拝見させていただいています!!!更新が楽しみすぎて毎日寝る前にこのページをチェックするのが習慣になっています!!! これからも頑張ってください!!!! 楽しみにしてます!!!!! (2019年12月22日 2時) (レス) id: 5287825b4c (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - 愛梨さん» コメントありがとうございます。前作も読んでいただいたとのことで、とても嬉しいです。面白いと言っていただけて大変光栄です！応援ありがとうございます、今作もお付き合いいただけますよう頑張らせていただきますね。 (2019年12月8日 17時) (レス) id: a52d40e8ad (このIDを非表示/違反報告)
愛梨 - 前作の「甘く、沈む。」から読ませていただいてます。とーっても面白いです。更新大変だとは思いますが、頑張ってください。応援してます。 (2019年12月8日 16時) (レス) id: 714c843cad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年12月7日 13時
