たとえあなたが鬼でなくても 下

72 ページ23

彼らが出たあと、2人っきりになった病室でAが静かに私の名を呟く


知ってしまったのだ。

悪いが今、お前の顔を見れない。

見せる顔がない


性格が悪いのも、
我儘なのも、
口の悪さも、
お前を傷つけた過去も、

そして最期の死に方も
思い出してしまった


殆ど私が殺したようなものだ。

自分を殺した者など見たくないと
言われるかもしれない

また見放されるかもしれない




『無惨さん』

｢……｣

『無惨様？』

｢…その呼び方は辞めてくれ｣

『じゃあ私を見てください』

｢…ｯ｣



惨めだ。

こんなにも執着して

嫌な出来事を思い出させて

それでも手放したくないという気持ちが膨れ上がる



『なんで泣きそうなんですか』



そりゃこうなるだろう

焦がれるほど惚れた女に またも捨てられるだなんて
想像するだけで身体中がガラスで刺されているようだ



『無惨さん、呪いは解きます。
沢山遊びに行けましたから』



待ってくれ

また言うのか？

あの時みたいに

さよならと目を伏せて出ていくのか？



『私に囚われずに生きてください』

｢無理だ｣

『そんな、そこまで私のことが好きですか』



好きだ。

誰よりも、何を犠牲にしてもだ。


他の人には理解不能な話だが、私にとってはぞんざいに扱われたあの地獄のような屋敷で、唯一太陽のように笑ってくれたのはAだけだった

暗闇の中の光はAだった、私の生き甲斐だった


確かに、
仮に娶ったのがAではなく他の女だったら、
仮にその女が私の手を取ってくれたのなら、
私はその女を愛していただろう

だが誰も救ってはくれない状況で手を差し伸べたのは
紛れもなくAという女性で
私にとっては女神そのものなのだ

私は彼女以外を愛せない



｢私と離れたいか？｣

『まさか、こんなにも絆しておいて？』



見上げれば、彼女は慈悲深い表情で私を見つめている



『3回目ですよ、飽きないんですか』

｢飽きない、飽きるわけが無い。｣

『そうですか。
……ごめんなさい、忘れてましたね』

｢そんな事どうでもいい。
それよりも、あんな死なせ方をさせて すまなかった｣

『どうでも良くはないでしょう』



どうして笑える？

どうして普通に話している、接している？

仮にも殺人者だぞ？



『続きは家でお話しませんか？家に帰りたいです』

73→←71

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す