たとえあなたが鬼でなくても 下

62 ページ13

｢少し出張に行ってくる｣

『え？出張？なんで、いつ、どれぐらい？』

｢そんなに怒るな。来週から1週間程度、仕事だよ｣



どこかしら嬉しそうに答える彼に対して
無性にイラついた。

何ニヤけてんだこのヤロー



｢なんだ、寂しいのか？｣

『さびしい。だって家に帰ってきたら
誰もいないんでしょ？とてつもなく寂しいですよ』



少し前の私なら耐えれた状況が、今では無理だ
無理になってしまった、この男のせいで


おいで、と手を広げるので素直に行けば
向かい合うように彼の膝に乗る

いつもは見上げてるけど見下ろすのもいいね

好きという気持ちが溢れてそのまま
落ちるようにキスをした

彼から学んだ愛情表現、学べなかった愛情表現


段々といやらしく腰の辺りを触ってくる手に
終止をかけるが適わない



｢今夜抱きたいのだが…どうだろうか｣

『だぁめ』

｢なにか不都合でも？｣

『今週一週間だめ』

｢…は？｣



やっと意味を理解したのか、
豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をしてる。

面白いね、笑っちゃう


今週一週間、そして来週ももう1週間、
計2週間のお預けね

絶望したような表情で見つめるけどダメなものはダメ

こら、胸を揉むんじゃない



｢せっかくこの前可愛いやつを買ったのにか？｣

『だめです。出来ないもんはしょうが無いでしょう』



あ、もう。項に頭をつけて息を吹きかけるな
くすぐったい


それよりも出張ってどこに行くんです？

…ねぇ、ちょっと？

質問に答えてくださいよ。おい、馬鹿



｢恋人に馬鹿はないだろう｣

『恋人を無視するのも良くないと思いますよ』



小さく項垂れてから関西と呟いた

ほぅ、関西か。どこよ、大阪？


京都ね、じゃあ…とスマホを取り出して
‘京都’‘お土産’と検索して色々と調べる

八ツ橋は中学の修学旅行で食べたし

あ、



『じゃあこれ、雪まろげ』

｢…｣

『なんです？なにか不満でも？』

｢一緒に行きたいとか言わないんだな｣

『そりゃ仕事がありますからね』



大学生の時だったらそう言っていたかもしれないけど
今は大人ですから、職がありますから。

お土産、楽しみにしてますよ。









.









.









.





『行ってらっしゃい』

｢行ってきます｣


リップ音がなった

63→←61

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す