帰ってきた「君のその手に」【完結】

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桐谷部長の退社。
本社異動してからずっと、慕ってきた上司が
理由を明白にしないまま辞めることになった。




妊娠でもしたのか？
いよいよ家に入るのか？
専務が社長になった時にまた側近として舞い戻ってくるのか？



色んな憶測が広がったけど
桐谷部長が専業主婦なんて想像も付かないし
じゃあ、妊娠？って推測しても、もし初期だとしたら傍から見るだけじゃそんなのわかんない。
また戻って来てくれたとしてももう一緒に仕事は出来ないんだ。



とにかく寂しくて。



同じ女性として目標にしてた所あったし。


ただ、宏光と前関係を持ってたっていう事さえなければ私達はもっと近付けてたように思う。


お互いが、遠慮して仕事以外の事は話さなかったっていうか。


だから、どうして辞めるのか、なんてもちろん聞きにくいし。



藤ヶ谷に聞いたら何となく知ってる風なんだよね。
嘘つくの相変わらず下手だし。



でも、知らねーな、なんてシラを切るあたり、あまりいい辞め方じゃないのかなって思ってしまう。



深入りしない方がいいんだ。
藤ヶ谷の態度がそれを表してた。



そして、やっぱり私と宏光の間では桐谷部長の会話は極力しないようにしてる。


宏光が、今回の事でどう考えてるかっていうのは
正直私にはわからない。



ただ、桐谷部長がこの会社から去る事で
本当に宏光と桐谷部長はこれで関わる事が無くなるんだ、と思うとそこだけは気持ちが軽くなった。









それなのに
一難去ってまた一難。





翌日、今度は私がA支社への異動を通達されたんだ。
しかも、宏光と入れ替わりで崎本部長の下へ･･･。




こんな事って･･･、



元々崎本部長との事がバレたからお互い違う支社に異動させられたのに、私が結婚してしまえばもうお咎めなしってことなのかな。



まあ、随分前の事だし。
今更気にしてるのは当人だけってこと･･･なの？





複雑な気持ちで、家に帰ると
宏光が険しい顔で迎えてくる。





「聞いた。異動の事。」


「う、うん。」






途端引き寄せられて抱きしめられる体。





「･･･大丈夫、だよな？」


「あたりまえじゃん。大丈夫だよ。」




そう言ってはみたものの、
緊張するのに変わりはないし崎本部長と何も無かったように仕事なんて出来るのか、想像もつかなかった。

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