168話 「碧棺左馬刻には亡霊が見える」 ページ24
『左馬刻さん、俺身分証なかったんで買えません』
「はぁ?何にも持ってねえなんて事そうそうね…………チッ」
――左馬刻さん、スンマセン俺未成年っス。
申し訳なさそうに言ってきたクソガキがいつかのクソガキにダブった。
舌打ちと共に、いつかと同じように頭を叩いて横をすり抜ける。
中華街に入って急に静かになったやつを不審に思って喋りかけながら振り返れば息を呑むことになった。
『え?……なんスか、左馬刻さん』
フードの奥に揺れる黒い前髪、その隙間から垣間見えた赤い目がどうも脳内をざわつかせる。格好もあの頃のクソダボに被って仕方ねえ。
不思議そうな顔をしている奴から静かに目を逸らした。
お守りを買ったらしい奴は手順だなんだという話を熱心に聞いてやがる。
ニコチン切れたな……吸いに行くか。無言で行ってもスマホがある、どうにかなんだろ。
近くの喫煙所の壁に凭れ掛かって煙草に火をつけ、毒の煙を肺一杯に吸い込む。
――左馬刻さん、煙草ばっか吸ってっと病気になりますよ。
「うっせぇわクソダボ」
んなモン、吸ってる奴が一番わかってんだよ。
黙ってやがれ。
今日一日、うぜぇうぜぇと思いながらも俺にはずっと亡霊が見えているらしかった。幻覚なんて生易しいもんじゃねえ。嫌になるほど何度もダブって見えた。
――なあ左馬刻さん!これ、この絵!ここ立つと俺浮いてるように見えねえ!!?
――いいっすよ、自分で出しますから!……そっすか?じゃあ左馬刻さん、ゴチです!
――いや、一口やるのはいいっすけど、これチョコだしめちゃめちゃ甘いから左馬刻さん無理だと……だぁから言ったじゃないっすか!……あでっ!蹴るのは理不尽!!
――すんません時間かかっちまって!!
『すんません時間かかっちまって!!』
「ッ……おー」
脳内の声と耳がとらえた声が同じ内容だった。顔を上げれば少し息の上がった奴が申し訳なさそうな顔をしている。
「よくわかったな」
『いや、煙草だろうなと思っただけっスよ』
へらっと笑った奴の頭にポンと手を乗せる。乱雑に撫でるように手を動かした。あいつの亡霊が乗り移ったようなガキがこちらを見上げる。
ああ、胸糞悪い。殴り飛ばしたいほど胸糞悪いくせに………俺は一体何を考えている。奴の赤い左目が一瞬ぎらつく。黒い髪の向こうから覗くそれは、嫌味なほどに似ていた。
「行くぞ」
『あっ、うっす』
パタパタと追っかけてくる足音まで同じような気がする。
ギリッと奥歯を噛みしめた。
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マカロニ - 夢野さんとの絡みが凄く楽しみです。どのように知り合うのか…。これからも楽しみにしています。 (2019年5月6日 20時) (レス) id: 9866c7f19c (このIDを非表示/違反報告)
蛇58(プロフ) - 推しってONE PIECEでの推しとかだと思った〜マジびっくり (2019年4月8日 23時) (レス) id: 0dda0db49d (このIDを非表示/違反報告)
霊夢どうふ - バイオお好きなんですね……私も大好きです。母がガチ勢です。一章の泣けるぜとあうんから察してましたけどばいおおおお((作者さんと語りたいですアシュリーのぱんつとレオンの尊さとエイダ様の美しさについて。面白いです!!更新頑張ってください! (2019年3月24日 0時) (レス) id: bd41a59bf6 (このIDを非表示/違反報告)
椿 - こ、これからもお体に気をつけて頑張ってください!( *`ω´) (2019年3月23日 22時) (レス) id: 15c63c8bdd (このIDを非表示/違反報告)
椿 - も、もう…しゅき、しゅきすぎる………!(語彙力の低下) (2019年3月23日 22時) (レス) id: 15c63c8bdd (このIDを非表示/違反報告)
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