50話 ページ7
あんな悲劇が起きるなんて考えもしなかった、まだ純粋にバスケを楽しんでいられた最後の日の夜の事だった。
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いつの時代も、現実だろうが物語だろうが悲劇というものは突然やってくるものらしい。
「スタメンを譲って欲しい?」
「そう、分かるでしょ?私これが最後の中学大会なの。なのに、後輩のアンタが試合にずっと出てて先輩である私はベンチなのはおかしいと思わない?」
午前の試合を無事に突破した後のお昼休憩での事だった。千秋先輩に呼び出され、何かと思えば八百長じみた取引野誘い。
「おかしいとは思いませんけど……。」
そもそも帝光中バスケ部は男女共に実力が全てだ。先輩だろうが後輩だろうが強い方が選ばれる。
そんな事は入部した時に刻まれるかのように教え込まれた筈だ。ましてや3年間バスケ部に在籍していたのならそれを知らない訳がなかった。
「私最後なんだよ?本当なら、アンタ入部してくるまでは正規のPGは私だってずっと言われてきたの。でも、選ばれたのは結局アンタだった。」
目の前の先輩は語る。
曰く、自分は期待されていたと
曰く、道は決まっていたのだと
曰く、お前さえいなければ、と。
「スタメンの座なんて、私の一存で決められるようなことでもないじゃないですか。この大会全国ですよ?」
百戦百勝を理念とする帝光中バスケットボール部が、そんな情でスタメンを変えるようなことはない。
「そう、そうなんだよね。これ全国大会なの。」
「先輩?」
「でもさ、さすがに怪我人を試合に起用する程うちの部は人員不足じゃない事は分かるでしょ?」
「何、を?」
「ずっとずっと邪魔だったの。彩が近くにいたからなかなか手を出せなかったんだけど、1人で呼び出しに答えてくれてよかったよ。1年の時に注意されたでしょ?彩にも虹村にも。」
“来栖千秋には気をつけろって”
「……えっ?」
トンっと肩を押され、重心が後ろにずれる
なんとか踏み留まろうと片足を後ろにずらして気がついた。
あるはずの感触がない。
会話しながら無意識に後ずさっていたようだった。
____だめだ、落ちる______
手を伸ばしても空を掴むだけで、重力に逆らうことなく身体が落下していく。
「は、はは……」
こんなやり方でしか勝つ方法が浮かばないなんて。
「情けない人。」
そこで意識が完全に落ちていった。
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作者名:りぃん | 作成日時:2019年9月23日 0時