推しが彼氏で彼女が推し 𝙻𝙾𝚅𝙴 𝚈𝙾𝚄 (ページ18)

今日:15 hit、昨日:3 hit、合計:4,138 hit

318話ページ18

｢うん。一緒に寝ようね、傍に居るよ｣

何時ぶりだろう
昔、怖い夢を見た日は大泣きしてパパの部屋に行って一緒に寝ていた

でも、睡眠薬を飲める歳になってからはずっとこんなことは無かった

｢ほら、おいで
特別にミルクティーを飲ましてあげる
黒べえには内緒だからね？｣

ソファに座った俺に毛布をかけてくれてお菓子とそれを差し出してくれた

｢美味しい｣

熱々の湯気が止まらないミルクティーを口に含む

｢……うん。美味しいね｣

舌に少しザラザラとした感触を感じた
睡眠薬を潰して入れてくれたんだろうな……

ありがたい

｢ほら、もう寝よう｣

備え付けの小さな洗面台で仲良く歯磨きをしてベッドに横になった

トントン、とリズム良く優しく体を叩いてくれてどんどん眠気が増してくる

今日はもう眠ろう

抗うことの出来ない眠気に従い目をそっと閉じた

｢ん……｣

私の手をぎゅっと握って眠るAの顔を見つめる
ポロポロと涙を流しながら苦しそうに眠っているのは見ていて心苦しい

｢大丈夫、大丈夫……そばにいますよ｣

頭をそっと空いた手で撫でてやればもっと、とねだるように顔を近づけて……
いつもとは想像がつかないほど無防備なその姿

そして少しずつ穏やかな表情になっていくその顔は少し私を安心させた

｢本当は何も知らないまま
幸せに生きていて欲しいのに……君はどこまでも進んでいって｣

危険な目にあって欲しくなくて視界を遮る度にその手を払って進んでいく

｢そばにいるから。思う存分進みなさい｣

守るから

久しぶりに泣いた

棚に並べられた薬品
棚に並べられたファイル、本

たくさんの論文

どれだけ手を尽くしてももう心の傷を消すことは出来なくて
心を大きくして傷を見えなくすることしか出来ない

心を大きく傷を小さく
それしか僕たちにはできないから