【鬼滅の刃】神様の巫女 弐

第24話 女を喰らう鬼 ページ17

ゴポッ。水音を立てて、まるで水にでも浮かぶかのように黒い影から緑の着物が顔を覗かせた。身体だ。緑の着物を着た身体。顔が浮いてこないということは背中か。


あの柄(がら)はきっと────女物。


「っ！」


息を呑んだのは炭治郎。目を大きく見開いたのは私。
炭治郎が躊躇なくその黒い影に手を突っ込んだけれど、何かが中から着物を掴んでいるらしくすんなりと引き上がらない。

それを把握した瞬間、私は身体の向きを変えて影目掛けて素早く刀を振るった。
何かを切った感触。大した手応えが無いってことはこれは布か。引っ張るものがなくなった炭治郎は影から引っ張り上げた女性を抱き上げ後ろに大きく跳んで、私もそれに続く。


手だった。
炭治郎の左側に着地して先ほどいた場所を見れば、私が斬り裂いた着物の一部を握る手が一本、影から生えていた。
ざぷっ、とそこから出てきたのは青い髪に白い肌をした鬼。
…………こいつが血鬼術を使う、異能の鬼。

布を握る腕とは逆の腕には切り傷があった。さっき炭治郎が刀を突き刺した時のものだろうけれど、瞬きを二つする間に傷は消えてなくなってしまう。
知っていたがやっぱり鬼の再生力は凄まじい。


「攫った女の人達はっどこにいる！」


ぐったりとした女性を抱きかかえたままの炭治郎が鬼に険しい声をぶつけた。
どこ、なんてそんなの言わずもがなな気がする。鬼が人間を保存したまま後日喰べる、なんて見たことないし、今まで消えた女性が帰ってきていないのならばそれが答えだろう。


ギリギリギリギリ……！
次の瞬間。炭治郎の言葉に返事をするように、恨めしげに顔を歪ませたその鬼が形容し難い音をたてた。


「っ、ぃっ……！」


思わず顔を顰める。だって本当に言葉に出来ない不快音なんだって。さっきギリギリギリギリって言ったけど、本当にその文字で表せてるか分からないぐらいの音。ずっと聞いてたら頭がおかしくなりそう。
口元、というより歯が動いているからこれは歯軋り？ 嫌だめちゃくちゃ歯が削れてそう。っていうか歯軋りで済ませていいレベルの音じゃないんだけど。

それでも怯まない炭治郎は、本当に本当にすごいと思う。


「これから、二つ聞く！」


鳴り止まない歯軋り、増す威圧。
こちらに向く視線が更に鋭いものになって、柄(つか)を強く握った。


「炭治郎、こいつ話通じる相手じゃなくない……？ ちょっと怖いんだけど……」

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