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「っ……」
あの時の事を思い出す。
こちらには聞こえないのに、言いたいことだけ口にして、兄さんは森の奥へと消えていった。
その場に一人残された私は、痛む身体をなんとか起こして動かして、森の中に置き去りにされた打刀を手に取った。
きらきらと輝く刃。傷ひとつない神器。
思い出すのは、肉を斬った感触と漂う鉄の香り、それから視界を赤々と彩る鮮血。
歯が立たなかった。斬っても斬っても再生する身体。規格外だから仕方ないなんて言葉は通じない。異能に対する対策も練れなかった。全て兄さんの掌の上。惨めだった。
「っ、ふ、ぅ……」
目元が熱くなって、ぽたぽたと地面に雫が落ちる。悔しくて惨めでどうしようもなくて、でもすごく怖くて、なんかもう全部がぐちゃぐちゃだった。
「A?」
ハッと記憶の海から帰ってくる。声のする方を向けば、そこにはタンポポが一輪咲いていた。善逸だ。
「善逸。どうしたの?」
「どうしたって……その、お前大丈夫か? なんか変だぞ最近。一人で考え事してる時が増えたし、さっきみたいに、魘されてる事も多いし」
「大丈夫大丈夫! 全然元気……待って、嘘、私魘されてた?」
「うん。すげー苦しそうだった」
起こそうと思った時に、お前飛び起きたから、と善逸は言って、私の隣にぺたりと座った。起こそうと思ったって、善逸もしかして起きてたの? それとも起こした? やだ申し訳ない。ええ、ごめんね……?
っていうか、魘されてる事が多いっていうのは……。
「……もしかして、善逸が最近私が寝てるとこ起こしてくるのって……魘されてたからだったりする? 私が」
「…………うん」
「あ゙ーー……」
思わず頭を抱えた。なるほど、だから最近起こされてたのか。いや魘されていたであろう時って多分、あの時の夢を見てたんだと思うけど……これは悪いことをしてしまったな。
「ごめん」
「なんでAが謝るんだよ」
「いやだって、善逸そのせいであんまり寝れてないんじゃないの?」
善逸の耳は人一倍良い。寝てる時に私が魘されてたら、嫌でも気づいて起きてしまうだろう。
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ユズヒ(プロフ) - 莉久さん» たくさんコメントありがとうございます!!嬉しい!!やっとこさ本格的に遊郭編に入りました!宇髄さんと絡ませるの楽しいので、もっと沢山絡ませたい欲が…ぐへへ…。いつもありがとうございます!励みになりますー!! (2022年11月7日 22時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - もう何回のコメントしてすいません!だけど!私の脳がテンションを抑えきれなくてッ!アァァァッッ本格的に遊郭編突入!楽しみでしかない…✨✨文章がっ、溢れ出るこの文才…✨主ちゃんが可愛すぎます…宇隨さんとの絡み最高です!更新頑張ってください! (2022年11月7日 22時) (レス) @page48 id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - 莉久さん» コメントありがとうございます!!やっと宇髄さん出せました!!これから遊郭編頑張っていきますー!!いいですよね宇髄さん。これからたくさん夢主に絡ませるぞ!嬉しいお言葉を文字数いっぱい…いつもありがとうございます…!これからも宜しくお願いしますー!! (2022年10月26日 2時) (レス) @page42 id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - 久しぶりの更新有難う御座いますッッッ寝る前に読もうとしたらテンション爆上がりなりました!!!⤴主ちゃん遊郭編楽しみだなー!やっぱ宇髄さんのキャラいいわぁ…好きィ(^^ω)毎回話の内容の尊さに悶え 、文才の差を噛み締めております。続き楽しみです!…字数ゥッ (2022年10月26日 0時) (レス) @page42 id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - 莉久さん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉の数々、ベッドの上で転げ回りながら感受致しました!本当にありがとうございます…!マイペースなノロノロ更新ですが、末永くお付き合い頂ければ幸いです〜!! (2022年9月27日 0時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユズヒ | 作者ホームページ:
作成日時:2021年12月20日 0時