検索窓
今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:7,435 hit

Adam and Eve ページ10

クリスマスイブの前日、終業式の昼下がり。

窓から射し込む暖かな陽がショコラブラウンの髪に反射する。
机に肘を付き、その眩しさと伏せ目がちに落とす睫毛を眺める。

誰もいない教室に立花と二人きり。

たわいない話をし、立花が笑う幸せ。
穏やかで何気ない日常……心休まる時間……

が、いつの間にか二人の間には林檎がひとつ。

何の脈絡も無く、何故ここにあるのか不思議に思う反面、ずっとここにあったとも思える存在感。
それは俺の片手にすっぽり収まり、けれど立花には少し大きめ。

まるで物語の魔女から貰ったように艶やかに紅く、今すぐ食べてほしそうに甘い香りを漂わせている。

「林檎、食べないの?」
立花は両手ですくうように俺の眼前にもってくる。
俺は意図せず無性に食べたくて、口内に広がる唾を呑む。

瞬きさえも忘れ、林檎と立花から目が離せない。

「食べて。」
立花は林檎を両手で包み込むと、そっと接吻をした。

「美味しいよ。」
差し出す林檎を抗うことなどできなくて、一口かぶり付いた。

立花は満足気に微笑む。
天使の悪戯か悪魔の戯れか。
たっぷり蜜が入った甘い果肉は、果汁と共に俺に至福を与えた。

「私も一口食べたいな。」
桃色の唇がひどく妖艶に感じ、理性が崩壊しそうになる。

俺の手首を持って、自分へと林檎を引き寄せる。
そして、目を閉じ口を開けた。

愛おしい女が美味しいと咀嚼する口もと、果汁で潤う唇……想像するだけで俺の幸福感は満たされる。

さぁ、共に行こう……


自我が恍惚に支配されようとした瞬間、頭の中で爆発音が響いた。

「食べるな!」

閃光のごとく理性が頭を横切り、今にもかぶり付こうとする立花から林檎を取り上げた。
我に返った俺に驚きの目を向ける。

「ダメだ……この林檎を食べていいのは俺だけだ……」
強い口調で言うと、天使でも悪魔でもない立花に戻っていて、悲しい目をしている。

「ごめんなさい、ごめんなさい……

どうして謝るんだ?
悪いのは俺なんだ。
お前を近くで守ってやれない俺なのに……

悪夢のように自己嫌悪が俺を支配していく。

立花の泣き出しそうな顔に触れようとした時、世界が暗闇に包まれた。

次ページ→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.2/10 (11 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
6人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

千祥(プロフ) - りぃあ♪#さん» コメ及び、読んで下さりありがとうございました(*^^*) (2020年4月7日 21時) (レス) id: 1ff717e023 (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - とっても面白いです!更新楽しみにしています! (2020年4月6日 19時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:千祥 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年9月15日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。