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「黒木君、寒くない？」
戻ってきたアーヤの問いに我に返る。
着座すると、むき出しになった両腕を擦った。
「俺は大丈夫だけど？」
今日は８月の真夏日。
台風の影響もあり、湿度は高くむし暑い。
よって、場内の冷房はよく効いている。
確かに、羽織るものを持ってないアーヤには寒いのかもしれない。
俺は麻のジャケットを脱いでアーヤの肩に掛けた。
「ありがとう。」
照れながら言うと、一瞬動きを止め、ジャケットの袖に顔を近づけた。
「黒木君、良い匂いする！」
日頃から匂いには気を付けている。
思春期特有の男臭さと汗臭さは学校とサッカーの時だけで、ごちそうさま。
自分の中のちょっとした定義。
パルファムは大人の世界へ参加する時につけて背伸びをし、オーデコロンは男友達なんかと遊ぶ時につけて粋って見せる。
今日はデートなので間をとって、アーヤのように無垢な女子にもさりげなく好感を与えるオードトワレ。
俺には日常的な事、言うなれば服の一部なので、興味深く仔犬のように匂うアーヤに気恥ずかしくなる。
まるで素肌を嗅がれているようで、顔が熱くなった。
ステージ後半は有名な曲ばかり。
アーヤも嬉しそうに聞いていた。
最後の演奏が終わるとスタンディングオベーション。
一斉に観客が立ち上がり、拍手を贈る。
アーヤは初めての事で辺りを見回し、戸惑っている。
一足先に立ち上がってお手本のようにステージに向かって拍手すれば、得心したのか、すぐに真似をした。
本来自分の意思でする事であって、“皆がしてるからする”行為では無いんだけどね。
初めてのアーヤには一つの“経験”ってことで。
多分アーヤはお芝居やミュージカル、コンサートにさえ行ったことが無いと思う。
今まで本人の口から、そういった話を聞いたことが無い。
失礼かも知れないが、アーヤのママはあまり興味が無いように思う。
アーヤもまた然り。
知り合って間もない頃、俺は本当に驚いた。
今の世の中こんなにも情報に溢れ、娯楽だらけなのに、何故勉強以外の事に興味を示さないのか。
いや、知ろうとしないのか。
そんなアーヤに興味が湧いた。
放っておけなかった。
だから俺が事あるごとに色んな事を教えれば、素直に吸収し興味を示した。
そしてアーヤは俺に、ちょっとした光源氏か河合譲治的気分を味合わせてくれる。
楽しくて、嬉しくて、どこかこそばゆい、誘って良かった……改めて思った。
駅で刺さったハートの矢が、更に深くなったように感じた。
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千祥(プロフ) - りぃあ♪#さん» コメ及び、読んで下さりありがとうございました(*^^*) (2020年4月7日 21時) (
レス) id: 1ff717e023 (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - とっても面白いです！更新楽しみにしています！ (2020年4月6日 19時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)
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