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私は澄んだ空気を、肺いっぱいに取り込んで吐き出す。
「やっぱり山は落ち着くな」
鶴見中尉の元を危機なく、合法的に抜け出せた開放感が、私の身を支配している。
鶴見中尉は私が師団を抜けることを許可した。
そうハッキリ口にした訳ではなかったが、決着をつけようと言ったのは、そういうことなのだ。
それに加え、あの人は私に尾形の監視を命じた。
尾形は造反者の脱走兵。
その男の監視につけと、信用もクソもない、中尉の命を狙っているものに言うだろうか。
普通は言わない。
あの人は暗に「尾形の味方につき、私を倒しに来い」と言ったのだ。
都合のいい解釈だと思われるかもしれないが、それで構わない。都合良く受け取った者勝ちだ。
「まぁ、私は尾形につく気はさらさらないけれども」
一人歩きながら呟くが、当たり前に誰も言葉を返してはくれない。
と、思っていた。
バーンッ
「——なっ」
独り言に返事を返したのは一発の銃声。
その弾は、見事に私の左脇腹を撃ち抜いた。
「痛ってぇ」
患部を強く握り締め、止血を試みながら小さく言うと茂みの中から一人の兵士がでてきた。
そのままこちらに歩み寄ってくる。
私は痛みで少しづつ荒だってきた息をしながら、下から男を睨みあげる。
「ざまぁないですね。天下の狂犬様が」
狂犬。それは私に付けられた影のあだ名だった。
何故そんなふうに呼ばれているのかは知らないが。
「俺は前から、あんたのことが嫌いだったんですよ。いつも済ました顔して、女の癖に馬鹿強くて……目障りなんだよ」
こちらに歩兵銃の銃口を向け、引き金に手をかけた。
——こんなとこで、死ねるか。
腰にある軍刀の柄を握る。
男が引き金を引くと同時に一気に引き抜き、その勢いのままに銃口を右へずらした。
私のすぐ横に銃弾が落ちる。
そんなことは気にせず、呆気にとられたままの兵士の首元へ、刃を滑らせた。
「グアァッーー！」
悲鳴が上がると同時に、真っ赤な液体が、純白の雪を染め上げた。
男の目から、光が消える。
「ぐっ、はぁ、はぁ、」
私は膝をつき、その場に倒れ込む。
脇腹の血が止まらない。
このままだと本当に死んでしまう。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
