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「レプンカムイだ！」
「アシㇼパさん！白石！船に乗れ！刺青がシャチに食われちまう！」
あの子、さっきのアイヌだ。杉本の仲間だったのか。
「っ、」
一段と強く、砂浜を踏みしめる。
カキンッ
杉本の歩兵銃と私の軍刀がぶつかり合う音が聞こえた。
「邪魔すんじゃねぇ！」
歩兵銃の先についた銃剣が勢いよく振り下ろされる。
それを避けるため、一歩引くと杉本は隙を着くように私の鳩尾に向かって銃剣を突き刺そうとする。
甘いな。
「なっ！」
私は体を左に傾け、攻撃を避けながらしゃがみ混み、杉本の足を蹴り払った。
すると、杉本は船の中へと倒れ込んだ。
「ぐあっ」
「出せ！早く！」
「へ？あ、はい！」
アイヌの少女の命令に従い、白石が船を出す。
私は手を出すことなく、それを見送った。
すると、ぞろぞろと他の連中もやって来た。
丁度良かったな。
「船の用意をしろ！」
私の背後から、あの男の声がした。
「鶴見中尉殿。遅かったですね」
隣に並んだ鶴見中尉に言う。
「君がいるから平気だと思ったんだが」
「申し訳ありません。足を払った先が、丁度船の上だったもので」
嘘では無い。それが狙った行動だっただけだ。
「船の用意が出来ました！」
「よし、君はここに残れ」
そう言うと、鶴見中尉は私の頭に手を乗せ「無理はするな」と小声で続けた。
普段なら反抗しただろうが今回に限ってはありがたい言葉だった。
正直これ以上、海のそばにはいたくなかったからだ。
私は海があまり好きでは無いのだ。
先程杉本達にしたように、今度は鶴見中尉と数多くの兵士たちを見送った。
そう時間の経たないうちに戻ってきた鶴見中尉の顔には杉本を取り逃した悲嘆の表情は微塵も浮かんではおらず、むしろこの先の戦争を想像して胸を弾ませているようだった。
一人の一等卒が駆け寄り「鶴見中尉殿！」と敬礼をしてから、話し始める。
「尾形上等兵が病室から消えました」
……尾形のやつやりやがったな。
「それと、もう一人。二階堂浩平一等卒の姿が数日前から見えません」
二階堂を引き連れて脱走したのか。
「黒木上等兵」
「はい」
「尾形上等兵には監視をつけてある。だがそう長くは持たんだろう。頼めるかな」
それはつまり、私を解放するということになる。
「……いいんですね」
「ああ。五年前の勝負に決着をつけようじゃないか」
男はこちらに振り返り、妖しく笑った。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
