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海岸に波が打ち寄せ、ザァザァと喚き散らす。
海はあまり好きでは無い。
この波の立てる音が嫌いなのだ。
聞いていると、こちらまで感情が揺れ動くような気がして不安になる。
まあ、それだけが理由では無いのだが。
私は幼い頃に海で溺れかけたことがある。
はっきりとは覚えていないが、口の中に侵入してきた水の塩辛さ。あれは海水だった。
それはとても冷たく、体に何百本もの針を突き立てられているかのようだった。
小樽の海岸、私は鰊番屋の傍で海を見渡しながら立ち尽くす。
「黒木上等兵？どうか致しましたか？」
物思いに耽っている場合ではなかったな。
「いや、なんでもない。なにか情報は得られたか？」
「いえ、変わった刺青を入れたやん衆に心当たりはないそうです」
「そうか……」
番屋の中にいた者に聞き込みをさせたが、そう簡単には見つからない。
まあ、殺人の場所を逐一変えるような用心深い男だ。
着替えを行う時も、周りに目撃されないよう気を配っているだろう。
「ん？あれは、」
私は海に何隻かの船が浮かんでいることに気づいた。
手配書を見て囚人、辺見和雄の顔は把握している。
これだけ探して見つからないということは、ニシン漁に出ている最中なのかもしれんな。
「よし、私は単独で捜索する。お前らは四人、いや、五人以上でまとまって行動するようにしろ。いいな？」
「は、はい。ですが何故五人以上なのでしょうか」
疑問に持つのも無理は無い。
戦争の惨禍を生き抜いた兵士たちだ。
一人の殺人鬼ごとき殺してひん剥くのに五人は多すぎる。
しかし、それは妥当な人数だった。
むしろもっと多くともいいくらいだ。
この海岸をうろつくのは辺見だけでは無い。
私は思わず「ふっ」と小さな笑い声を漏らす。
「鬼と不死身がいるかもしれんからな」
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
