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「黒木上等兵殿！」
「っ、びっくりした……、どうした。そんなに慌てて」
月島、いや、鶴見中尉の命令通り尾形の横で監視をしながら書類整理を行っていると、一等卒がいきなり戸を開け、私の名を叫んだ。
「招集命令です！街で爆弾騒ぎが起こっており、直ぐに黒木上等兵を呼ぶようにと！鶴見中尉が！」
その言葉で状況を理解する。
「——了解」
急いで支度を済ませた私は、厩から馬を一頭出し、現場へと夜駆ける。馬の蹄が軽快に足音を鳴らしていった。
「鶴見中尉！」
駆けつけた先には、一人の男の死体とそのそばに座る鶴見中尉。その周りを取り囲むように何人もの兵士たちがいた。
「黒木上等兵、早かったな」
「急ぎましたから」
馬から降りながら、自信で入手した情報を述べる。
「道中耳にしたのですが、こちらとは別の方向から聞こえた爆発音は堺町通り付近だそうです。離れた二件の場所を爆破した意図は、——分かりますよね、あなたなら」
促すように言うとパンと鶴見中尉が死体の腹を叩き、呟いた。
「金融街か。こっちの騒ぎは誘導作戦。狙いは銀行だ」
バッと立ち上がり、こちらへ振り向き、近づいてくる。
「馬を借りていくぞ」と言って手綱を握った。
「軍の馬なので構いませんが、無下にはしないでくださいね。先日二頭死んだばかりだ」
私が言うと、信用性の欠けらも無い笑顔で「もちろんだ」と返された。
馬へ跨り、銀行へと駆けてゆく。
その背中が見えなくなった辺りで、そばへ立つ月島に声をかけた。
「月島、この騒動は誰によるものなんだ？」
「今は分からん」
その返答に私は顔を顰める。
「だが、あの方が戻って来たら分かるだろう」
……それもそうだ。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
