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カリカリと、紙と万年筆が擦れる音が聞こえる。
それほどに、この空間は静寂に満ちていた。
「よし」
ことんと万年筆を机に置く。
月島に呼び戻されて、仕方がなく行っていた事務作業も集中してしまえばあっという間に終わる。
事務作業は特段嫌いという訳でもないのだが、始めるまでの面倒くささがどうにも拭えない。
席を立ち、まとめた書類を手に部屋を出る。
廊下を歩いていくと、何名かの一等卒とすれ違った。
そして彼らは律儀にも「お疲れ様です。黒木上等兵」と声を掛けてくる。
私はその度に「ああ」とだけ返し、足早に去っていくのだった。
そいつらが嫌いだからでは無い。
私は慣れない相手との会話が苦手なのだ。
そして、人の名を覚えることも同じく苦手。
尾形や宇佐美、月島なんかは良く交流があるので、名は勿論のこと、会話も全く平気なのだが。
ある部屋の前で足を止め、戸を叩く。
すると中から「入れ」と声が聞こえたので、私は取っ手を掴み、部屋の中へと入った。
「事務資料、まとめ終わったぞ。月島」
机越しに椅子に腰かけている月島に先程の資料を渡す。
「ご苦労だったな」と言ってそれを受け取り、ペラペラと軽く目を通している。
「よく出来ているな」
「そりゃどうも」
仕事はこれで終いだ。
見舞いへ行ったのが午の刻だったので今はもう申の刻だ。
一度部屋に戻り、銭湯にでも行ってこようか。
これからどうするか思案する。
「黒木、お前は明日、尾形の監視をしろ」
月島からの命令に私は目を丸くした。
「監視？尾形の？」
「そうだ」
なぜそんな必要があるのか。
確かに尾形が目を覚ました時、誰かが近くにいた方が安心ではある。
けれど、こいつは今監視と言ったのだ。
そういう意味合いではないということは明らかだった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
