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ヒヒィーン
夜の寒空に、獣の声が木霊した。
「馬の鳴き声？」
部屋に戻り、そう時間が経たないうちに、馬が騒ぎ出した。
珍しいな。
こんな夜更けに、鳴き出すことなど滅多に無かったので、私は不審に思う。
書き物をしていた手を止め、自身の頭に思考を巡らせる。
馬泥棒？いや、違う。わざわざ軍の馬を盗もうとする馬鹿はそういない。
二階堂兄弟のこともある。
一応、忠告はしたが、あの二人がそれに従うとは思えなかった。
嫌な予感とも、良い兆しへの期待感とも言えるような感覚が、身体を巡る。
……杉本の様子を見に行くか。
私は腰を上げ、部屋から出ると、杉本の監 禁されている部屋へと向かう。
着いた先には、もう人だかりが出来ていた。
そして、そこではほかの兵士に拘束された、双子の片割れが泣き叫んでいた。
「黒木上等兵殿！お待ちください！」
私を呼び止める声が聞こえなかった訳では無い。
しかし私は気にすることなく、部屋の戸の前まで歩みを進め、そこで足を止めた。
「ほぅ？」
その部屋の中には、首が変な方向を向いている、仰向けに倒れ込むもう一人の双子の片割れがいた。
その瞳は光を宿しておらず、瞳孔が開ききっている。
その傍には、壁に背を預け息を切らしている杉本の姿もあった。
そしてその腹からは、臓物が飛び出していた。
私は担架と、馬の用意をするよう指示を出しながら、杉本の元へと近づいていく。
二階堂の遺体を通り過ぎる時、少しそれに流し目をくれる。
軍刀を持つ右手の平の深い切創。
帯革の裏にまで着いた血の指紋。
杉本の前にしゃがみこみ、腹部に手を当てる。
杉本が不安げな表情を浮かべた。
……なるほどな。
「ふっ」
「っ、」
私が思わず笑ってしまうと、杉本が息を飲んだ。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
