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一発の銃声。その後に聞こえてきたのは、先程まで二階堂が構えていた歩兵銃が床を滑っていく音だった。
「殺すなと言ったはずだが？」
そう二階堂を睨みつけながら声を発した私の手には、銃口から煙が立っている拳銃が構えられている。
銃弾を放ったのは私だった。二階堂が引き金を引く前に、その銃をはじき飛ばしたのだ。
「黒木上等兵。私は発砲許可を出した覚えはないぞ」
怒っている。字面で見ればそう思えるだろう。
だがこの男は一ミリたりとも怒ってはいない。
その顔面に広がる笑みがそう言っていた。
「では、打たない方が良かったですか？」
私は拳銃を腰のベルトに戻しながら、鶴見中尉の出す返答をわかった上でそう言った。
「いや、正しい判断だ」
鶴見中尉は顔を引きしめ、張りのある声で言った。
「二階堂浩平、洋平一等卒は退室しろ」
「しかし！」
「聞こえなかったか。退室しろ」
「っ、はい……」
とぼとぼとした様子で二人仲良く部屋から出ていく双子。
出ていく前に私を二人で睨みつけてきたが、私は何を言う訳でもなく、無表情でその背中を見送った。
「座れ、杉本」
私が言うと、「だから、俺は杉本じゃないってば」と文句を言いながらも、杉本はもう一度席に着いた。
「人違いだな。俺は杉本なんて名前じゃねぇよ」
鶴見中尉を真っ直ぐに見ながら、杉本は言った。
鶴見中尉は構わず話を続ける。
「一度だけ、不死身の杉本を旅順で見かけた。少し遠かったが、鬼神のごとき戦いぶりに目を奪われた。あの時見たのはお前だ。蕎麦屋の大立ち回りを見て、ピンと来た」
昔を懐かしむように言う。
不死身の杉元を見たことがあったのか。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 0時
