愛を運ぼう【夏油傑】

…２ ページ22

 


 黒い長袖(ながそで)の服に、黒い緑のズボン、そんな格好(かっこう)をしたソイツがそう言った。

 『静かな人生を送りたいのであれば、関わらぬ事だな』。アイツの言葉が呼び起こされる。

(そんな事、分かってる)

 一般人の命の保証は出来ない、その脅(おど)しさえ無ければ、オレだって関わらない。


「一度上がったから家に上げるハードルが下がったとか勘違(かんちが)いしてんじゃねえよな」

「そんな事はないさ。私はただ、浅上さんといたいだけなんだ」

「意味分からんわ」

 オレは構(かま)わず足を動かして歩き出す。

「今日は私も手伝うよ。だから作って欲しいんだ」

「イヤだわ」

「せっかく買ってきたんだ。お願いしちゃダメかな」

「うどん食べられる場所にでも行けば？」

「浅上さんのうどんが気に入ったんだよ」

 母さんの味が気に入ったとしたら嬉しい話ではある。けど、正直(しょうじき)関わり合いたくない。


「母さんには母さんの味、気に入ったらしいって伝えとくから――帰れ」

「はるばる来てるって話しただろう？ 来た意味がなくなってしまうよ」

「どっから来てんの」

「うーん、県外とだけ言っておこうかな」

「はるばるご苦労(くろう)さん」

 ああ、嫌(イヤ)な感じだ――


「……今日機嫌(きげん)悪いから帰って。うどんなら今度作ってやってもいいから」

 そう言えば、歩いて行くオレの事を黙(だま)ってソイツは見てるっぽい。

「……ねえ、浅上さん」

「――……」

「私と一緒に出かけようか」

「……――は？」

 つい口から声が漏(も)れる。ソイツはニコリと笑って、オレの手を握(にぎ)る。


「呪霊を祓(はら)ってばかりで、力を隠して暮らしてるなんて気分も悪くなるさ」

「ちょ、手ぇ離せ！」

「ここからは遠いけど、植物園を途中(とちゅう)で見つけてね。そこに行こう」

 そう話してオレを引っ張(ぱ)っていくソイツ。


「――やめろ」

 小さい声がオレの口から漏れて。

「察(さっ)してくれ。精神状態が安定してないんだ」

「そういう時も、緑は心を落ち着かせてくれるはずさ」

 オレは足を止める。ソイツが振(ふ)り返る。


 

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